[神戸大学]チャレンジングな大学改革のもと、「先端研究」「文理融合研究」で世界トップレベルのイノベーションを牽引

大学改革 卓越する大学 2021年度版

世界に開かれた港湾都市・神戸の地に、118年に及ぶ歴史を刻む神戸大学。国際性豊かで、社会科学分野と理系分野の双方に強みを発揮し、学生数1万6000人を超えるわが国屈指の総合大学として発展しています。

とりわけ、武田廣学長の掲げるビジョン「先端研究・文理融合研究で輝く卓越研究大学へ」のもと、「先端融合研究環」や「科学技術イノベーション研究科」「神戸大学オープンイノベーション機構」など世界トップレベルの教育研究および産官学連携事業を展開。複数の大学発ベンチャーも誕生しています。

さらに、今春は価値創造の世界的拠点を目指す「V.School」も開設。価値創造の教育プログラムと企業連携プロジェクトが始動しました。


※このインタビュー動画は2020年7月2日に収録したものです

[神戸大学]チャレンジングな大学改革のもと、「先端研究」「文理融合研究」で世界トップレベルのイノベーションを牽引
武田廣学長

神戸大学の起源は、1902(明治35)年開設の神戸高等商業学校にまで遡ります。以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、今日では「人文・人間科学系」「社会科学系」「自然科学系」「生命・医学系」の四つの学術系列の下、10学部15大学院を展開。さらに、法学と経営学の2つの専門職大学院、経済経営研究所、先端融合研究環、医学部附属病院と多数のセンター群を擁する、全国屈指の基幹総合大学として発展しています。

とりわけ、国立大学の機能強化三類型においては、「世界最高水準の教育研究」を行う16大学の一つに選定。〝世界と競うグローバルな大学〟としての存在感を高めています。

いざ、海の神戸大学へ
「海神プロジェクト」出航

神戸大学は、武田廣学長の掲げる「神戸大学ビジョン」のもと、「世界最高水準の教育研究拠点の形成」の実現に向けた大学改革に取り組んでいます。なかでも注目を集めているのが、2019年11月に立ち上げられた「海神プロジェクト」です。

「四方を海で囲まれた日本は、国内の輸出入貨物の99%以上を船で輸送しています。一方、近年では温暖化により北極海の氷が溶け、運航が可能になるなど、海をめぐる国際的なルールが大きく変わろうとしています。海洋資源の開発なども含め、海に関する国際的な政策決定に参加し、わが国の主張を堂々と述べることのできる人材を育成することは喫緊の課題と言えるでしょう」

と武田学長が説明するように、同プロジェクトでは国際港湾都市・神戸に立地する総合大学として、「海洋立国日本」の基幹となる研究・開発を推進。わが国の国際的プレゼンス向上に貢献することを目指します。

その具体的な戦略の一つとして、21年4月に開設を予定しているのが「海洋政策科学部」です。これは、旧神戸商船大学の流れを汲む海事科学部を発展的に改組したもので、海に関する国際的な課題を抽出してその解決に取り組む「海のグローバルリーダー」、持続的な海の開発・利用および探査をリードする「海のエキスパート」、国際物流を支える外航船船長・機関士のみならず海運業界の経営にも携わる「神大海技士」の育成を進めます。海に関する諸課題に意欲的に取り組む有能な人材を広範から求めるため、理系、文系の2類型入学者選抜を実施するのも大きな特徴となっています。

「プロジェクトでは、本学における研究の顔である高等研究院に『海共生(ともいき)研究アライアンス』を開設したほか、練習船『深江丸』を利用した教育研究の管理運営を統括的に行う海洋教育研究基盤センターを設置しました。将来的には、包括連携協定を結ぶ海洋研究開発機構(JAMSTEC)などとの研究も推進していきたいと考えています」(武田学長)

[神戸大学]チャレンジングな大学改革のもと、「先端研究」「文理融合研究」で世界トップレベルのイノベーションを牽引

最先端の文理融合研究で
イノベーションを加速

神戸大学は、わが国屈指の総合大学であるとともに学部間の垣根が低く、教育から先端研究まで、文系・理系の枠を越えた取り組みを展開しています。2017年開設の「数理・データサイエンスセンター」では数学、統計学、情報科学を基礎とし、AI、ビッグデータ、IoTを活用して諸問題を解決する「データサイエンス」の基礎とリテラシーを学ぶ機会を全学的に提供しています。

一方、2016年にスタートした「科学技術イノベーション研究科」は、研究開発だけでなく、事業を創造するスキルを兼ね備えた理系人材を育成する文理融合型の独立大学院です。

「理系の尖った技術に、本学のルーツである社会科学、経営学のアントレプレナーシップといった知をつぎ込むことで、神戸大学発バイオベンチャーが6社、立ち上がっています」と武田学長は説明します。

その一つが、DNAの二本鎖を「切らない」画期的なゲノム編集技術を応用し、医療や農業、微生物など複数の分野の事業開発を目指す「株式会社バイオパレット」です。「同社は昨年5月、クリスパーキャス9という、従来のゲノム編集技術の著名な研究者らにより設立された米国のバイオテクノロジー企業と独占的クロスライセンス契約を締結しました。将来的にはその事業化で資金を得て、新たな知的財産を産み出す分野に再投資していくことを目指しています」(武田学長)

さらに、神戸大学は文部科学省の令和元年度「オープンイノベーション機構の整備事業」に採択されました。これまでの、社会科学系の強みを活かした文理融合の成功事例を全学に展開し、研究科を越えた融合の場となるプラットフォームとして開設されたのが「神戸大学オープンイノベーション機構(1)」です。ここでは医療技術・機器開発分野、バイオ工学分野、スマートコミュニティ分野、海事・エネルギー分野の4分野を重点領域として、次代を切り拓くオープンイノベーションに挑みます。

一方、神戸ポートアイランド地区では、サイエンスクラスターの中核機関としての役割を担う「先端融合研究環統合研究拠点」が「先端研究・文理融合研究」を展開。隣接するスーパーコンピュータとの連携も特徴で、「京」の後継機であり、計算速度を競う最新の世界ランキング4部門で1位を獲得した「富岳」による研究と計算機科学人材の育成に大きな期待が寄せられています。

(1) 神戸大学オープンイノベーション機構: 神戸大学の理念である「学理と実際の調和」のもと、「ビジネス」「研究」「共創スキル」の知見を有した事業クリエイティブ・マネージャーを配置。多様な企業や自治体を含めた共創の場を創出することで、共通の課題に対して新たな複数の競争領域を生み出すプロセスを支援する。[神戸大学]チャレンジングな大学改革のもと、「先端研究」「文理融合研究」で世界トップレベルのイノベーションを牽引
[神戸大学]チャレンジングな大学改革のもと、「先端研究」「文理融合研究」で世界トップレベルのイノベーションを牽引

価値創造のプラットフォーム
「V.School」が始動

今日では新しい価値を持つ技術や商品、サービスなどが次々に登場し、私たちの生活は飛躍的に向上しましたが、未だに私たちの社会には難問が山積し、現状を維持することすら容易ではありません。「価値とは何か」を考える上で、新型コロナウイルスにおける感染症対策と企業活動のバランスなどは、まさに象徴と言える問題の一つでしょう。

こうした中、「思索と創造のワンダーランド」というキャッチコピーのもと、価値創造の教育と研究を世界的にリードし、社会に多様な価値を提供するために設置されたのが「神戸大学V.School(2)」です。

「これまでは、新しい技術から何か新しいものを創るというのが基本にありましたが、これからはバックキャストの思考、〝こういう社会にしたい〟という期待(ウォンツ)から技術を考える必要があるのです」と武田学長。価値創造をプロセスとして捉え、教育を体系化するまったく新しい取り組みと言えます。

神戸大学では、卒業時に身につけるべき能力を「神戸スタンダード」として定め、自ら地球的課題を発見し、その解決にリーダーシップを発揮できる人材を育成しています。また、国際的なフィールドで取り組む学生の自主的な活動に単位を授与する「神戸グローバルチャレンジプログラム」といった試みも整備しています。わが国を代表する高エネルギー物理学の研究者としても著名な武田学長は、次のようにメッセージを送っています。

「いまは新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていますが、この危機を乗り越えなければ人類は先に進むことができません。本学ではこれを大学だけではなく、社会全体の問題として医療、研究に取り組んでいます(3)。皆さんには大学で何か一つ専門を極めた上で、幅広い視野、〝俯瞰力〟と問題解決力を備えた人間に育ってほしい。そのための高度な教育、研究の場が神戸大学には広がっています」

(2) 神戸大学V. School: 社会全体にとって大きな課題となっている「価値創造」を全学的に議論し合い、教育と研究に反映させていくために開設された、神戸大学独自の全く新しいプラットフォーム。カリキュラムは、価値創発や価値設計といったテーマについて教員と学生が議論を進めていく「価値創造サロン」や課題解決型プログラム、インターナショナル科目や企業連携講座などからなる。神戸大学生であれば誰でも入校申請ができる。

(3) 神戸大学のコロナ禍への取り組み: 神戸大学では、わが国屈指の医学部附属病院を擁する大学として、治療法・ワクチン開発をはじめ、ICUの開設、3Dプリンタを活用した医療機器・器具の開発、検査キットなどの迅速化・高精度化、ウイルスの飛散予測や飛散ウイルス撃滅システムの開発などを展開。さらに経済への影響やポストコロナの働き方提言、政策調査提言、教職員・学生ケアなど、総合大学ならではの人文・社会科学領域にわたる研究や調査なども実施している。

(4) 「志」特別選抜(旧・AO入試): グローバル社会の諸課題に挑戦する高い志を持つ学生を見出すため、2019年度入試から導入した新しい入学試験。2021年度からは総合型選抜として実施される。募集人員は7学部の計62名で、大学入学共通テストは課さず、第1次選抜で書類審査、模擬講義・レポート、総合問題等を実施。最終選抜では面接、小論文、模擬実習、プレゼンテーションなど(学科、専攻・コースにより異なる)により多面的・総合的に評価する。
http://www.edu.kobe-u.ac.jp/admc-info/special.html
[神戸大学]チャレンジングな大学改革のもと、「先端研究」「文理融合研究」で世界トップレベルのイノベーションを牽引