[同志社大学]ダイバーシティキャンパスを推進――。価値観の違いを新たな創造へ導くことができる “良心を手腕に運用する”人物を養成

大学改革 卓越する大学 2021年度版

新島襄が1875年に創立した同志社英学校を前身とする同志社大学。「一国の良心」ともいうべき人物の養成を志したのが教育の原点です。その「良心教育(1)」は「キリスト教主義・自由主義・国際主義」を理念に掲げ、今日まで受け継がれてきました。「諸君ヨ人一人ハ大切ナリ」という新島の言葉に象徴されるように、植木朝子学長のもと、他者を理解し、その違いを新たな創造へ導くダイバーシティの推進に重点的に取り組んでいきます。

宇宙生体医工学研究プロジェクト(2)に代表される多彩な異分野融合研究をはじめ、産学連携による人材育成を展開。EUキャンパスで開講する教育プログラムも始動しました。2021年には、多様性に富んだ学生が共修する教育寮が開設予定です。

※このインタビュー動画は2020年6月23日に収録したものです

(1) 「良心碑」(良心教育): 新島襄が、療養に励む東京から一学生に送った手紙の一節が、自筆の書体を拡大して刻まれている碑。原文は「良心之全身ニ充満シタル丈夫ノ起リ来ラン事ヲ望テ止マサルナリ」。同志社教育の真髄を示す「良心教育」という言葉はこれに由来する。
[同志社大学]ダイバーシティキャンパスを推進――。価値観の違いを新たな創造へ導くことができる “良心を手腕に運用する”人物を養成
(2) 文部科学省平成30年度「私立大学研究ブランディング事業」に採択: 「宇宙生体医工学研究プロジェクト」は、同志社大学先端的教育研究拠点として2018年4月から研究活動を展開している。
2019年には、同プロジェクトを軸とする取り組み「宇宙生体医工学を利用した健康寿命の延伸を目指す統合的研究基盤と国際的連携拠点の形成」が、文部科学省の平成30年度「私立大学研究ブランディング事業(タイプB:先端的・学際的な研究拠点の整備により、全国的あるいは国際的な経済・社会の発展、科学技術の進展に寄与する研究)」に採択された。2020年度まで3年間の支援を受ける。2022年度までの5年間で大学のブランディング事業としての確立を目指す。
[同志社大学]ダイバーシティキャンパスを推進――。価値観の違いを新たな創造へ導くことができる “良心を手腕に運用する”人物を養成
植木朝子学長

「諸君ヨ人一人ハ大切ナリ」
多様性と寛容に満ちた環境で
他者への理解と創造力を育む

「諸君ヨ人一人ハ大切ナリ」――。今出川校地新町キャンパスにある校舎の渡り廊下の壁に刻まれたこの言葉は、同志社の創立者・新島襄が1885年、同志社英学校創立10周年記念式典で述べた一節です。このとき欧米視察から帰国したばかりの新島は、自身の不在中に7人の学生が退学処分に処せられたことへの深い悲しみの思いがこみ上げ、式辞の中で思わずそう語ったといいます。

同志社の歴史を辿ると、幕末の激動の時代、日本の将来に憂いを抱いた新島襄が鎖国の禁を犯して渡米したことに始まります。約10年にわたりキリスト教の根付いた欧米社会に学んだ新島は、日本の近代化のためには教育から社会を変えなければならないと確信。キリスト教主義に基づく全人教育により、「一国の良心とも謂うべき人物」の養成を志したのです。これが同志社教育の原点である「良心教育」です。

この志を受け継ぐ同志社大学は、「キリスト教主義」「自由主義」「国際主義」の3つの教育理念を今日まで貫いてきました。それは、徳育の価値判断の基準をキリスト教に置き、一人ひとりの学生を大切にし、束縛せず、学生が自らを律しながらも自由に行動することを尊重し、大きな視野でものごとを考えることを重視するということ。これらは、キャンパス全体を包む学風となっています。

植木朝子学長は、こう説明します。

「『人一人ハ大切ナリ』という新島襄の言葉に象徴されるように、人の痛みに共感できる自立した人物を生み育てること、これが本学の目指すべき確かな方向です。それは、多様性と寛容に満ちた環境のなかでこそ成り立つものです。一人ひとりの個性を大切にし、ダイバーシティの視点と倫理観を持った人物を育てる教育に注力したいと思います。自身と異なる価値観や境遇を持つ他者を理解し、その違いを新たな創造へ導く力を育てるダイバーシティに関する教育の推進は、良心教育の実質化の一環ともなり得ると考えています」

そして、「ダイバーシティ推進室」の設置を構想。男女共同参画、障がい者支援、グローバル化推進、セクシャルマイノリティ支援にかかわる包括的な対応を行うための組織です。

「バックグラウンドが同じ人ばかりが集まると、なかなか気付かないことがあります。例えば、ある状況がどのような困難を引き起こすかについて会議で話し合うとき、『こうなったらこんな困った事態になってしまう』という気付きには、さまざまな人がその場にいるということ自体が非常に貴重なことではないかと思うのです。そういうことに一つひとつ気付いていけるよう、大学を運営していく上で、マイノリティの声を引き受ける場所にしていかなければならないと思います」と植木学長。

[同志社大学]ダイバーシティキャンパスを推進――。価値観の違いを新たな創造へ導くことができる “良心を手腕に運用する”人物を養成

「良心教育」に基づき、
総合知を備えた
次代のリーダーを養成する
「同志社大学新島塾」

「同志社大学新島塾」では、良心を手腕に物事の全体を見渡し、最善の方向に導くことができる人物の養成を目指します。そのため、文系と理系の垣根を越えた総合知を涵養する教育プログラムを展開。選抜された塾生は、課題図書を読むことで自身の学問分野にとらわれない幅広い教養を得て、異なる学部の塾生と議論することでさまざまな価値観やものの見方を体感します。学内外の専門家を講師に招いた合宿形式の討論会も設けています。

今年はオンラインで、塾生を対象にした特別講義「新型コロナウイルス禍後の社会」を5月に開催。講師を務めた同志社大学特別顧問で神学部の佐藤優客員教授との対話を通して、知の共同体の一員として大学で学ぶ意義を改めて認識し合いました。また、塾長を務める植木学長は「先の読めない状況に直面しているからこそ、先人たちの知の集積ともいえる書籍から学び続ける姿勢を持ち続けてほしい」と語りかけました。

中世日本文学が専門の植木学長は次のように説明します。「東日本大震災の後、多く読まれたという鴨長明の『方丈記』には、五つの災害が挙げられています。自然災害ではかなく人の命が失われ、世の中の無常を痛切に感じる。いかに無常な世を生きていくかがつづられており、今日の社会の状況とも似通っているのではないでしょうか」

EUキャンパスプログラムが始動
学際的教育研究で新たな知を開拓

2017年4月、協定校であるドイツのテュービンゲン大学(1993年から同志社大学内に日本研究拠点を設置)内に、初の海外キャンパスである「同志社大学テュービンゲンEUキャンパス」を開設。翌年には教員交換協定を締結し、2019年度から「EUキャンパスプログラム(3)」が開始しました。

参加した学生は春学期中の約5カ月間、テュービンゲン大学でドイツ語による授業や日本語学科の学生との共修などを体験し、EUについて学びを深めました。2020年度は秋学期開講科目を新設。年間を通じてEUキャンパスでの教育プログラムを提供します(※2020年度は新型コロナの影響で当面中止)。

さらに、約800人の研究者を擁する同志社大学は、異分野融合による新たな学問領域を創出しています。

このうち、2018年4月に同志社大学先端的教育研究拠点として発足した「宇宙生体医工学研究プロジェクト」は、理工学、生命医科学、スポーツ健康科学、脳科学などヒトの健康に関する分野の統合研究を推進。宇宙環境での実験を利用し、老化や寝たきり生活に伴う身体活動機能およびQOLの低下といった文理双方の課題解決に取り組んでいます。NASAや海外の大学との共同研究も実施しています。

また、2008年に設立した「同志社大学赤ちゃん学研究センター」(文部科学省の共同利用・共同研究拠点)では、小児医学や心理学、情報工学、人工頭脳やロボット工学などを融合した最先端の学問領域を開拓。学研都市キャンパスに整備した「同志社大学-理化学研究所連携研究室」を拠点に、理化学研究所と共同で発達障害の発症メカニズムの解明を進めています。

今年4月には、ダイキン工業との協定に基づき、「同志社―ダイキン『次の環境』研究センター」を学内に開設しました。室温でのCO2の回収・分解・再利用の技術を共同研究し、産学連携によるイノベーション人材の育成にも取り組みます。

このほか、2017年12月には日本の大学で初めて文化庁地域文化創生本部と研究交流に関する包括協定を締結。教育面でも全学共通教養教育科目に「クリエイティブ・ジャパン科目(4)」を設置しています。

「京都の立地と両校地の多彩な研究領域の強みを活かし、新たな知を創出するとともに、学部・研究科においては横断型教育プログラムを積極的に展開していきたい」と語る植木学長は、受験生に次のようにメッセージを送っています。

「困難な時こそ忍耐強く学び続けることが大事です。このような状況の今だからこそ、思索を深める静謐な時間を持ってほしい。やがては、困難を乗り越えられたということが、皆さんの自信につながります」

(3) EUキャンパスプログラム: ドイツのテュービンゲン大学内に設置した「同志社大学テュービンゲンEUキャンパス」で開講する教育プログラム。
春学期には、ドイツ語の運用能力向上を主目的とした「ドイツ語・異文化理解EUキャンパスプログラム」を開講。秋学期には、英語または日本語で現地の学びを深める「ヨーロピアン・スタディーズEUキャンパスプログラム」を開講している。
募集人数は、春、秋学期とも約15名。
(※2020年度は新型コロナの影響で当面中止)

(4) クリエイティブ・ジャパン科目: 日本の伝統、文化、芸術への高い関心を育み、「感性価値」の創造と受容の基礎となる力を身につけ、創造力を涵養することを目的とした新しい学び。「京都科目」「クールジャパン科目」「クリエイティブ・ジャパン科目」などから構成される。
これらを通して、「日本文化の魅力」「グローバルに受容される価値」について考察し、「京都から日本全国、そして世界へ」と広がる視野を養う。
[同志社大学]ダイバーシティキャンパスを推進――。価値観の違いを新たな創造へ導くことができる “良心を手腕に運用する”人物を養成