[立命館アジア太平洋大学(APU)]新型コロナウイルス禍の先に加速するグローバル教育

大学改革 卓越する大学 2021年度版

新型コロナウイルス禍で人やモノの移動が制限される中、グローバリゼーションはどこに向かうのか。国際学生(留学生)と国内学生(日本人学生)が半数ずつという環境でグローバル人材を育成する、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に、コロナ禍の影響とその先を見据えた人材育成の取り組みについてお伺いしました。

※このインタビュー記事は2020年6月10日、動画は10月7日に収録しました。

[立命館アジア太平洋大学(APU)]新型コロナウイルス禍の先に加速するグローバル教育

出口 治明学長

1948年三重県生まれ。1972年京都大学法学部卒業。日本生命保険相互会社を経て、2008年ライフネット生命保険株式会社を開業。2012年上場。2018年より現職。『0から学ぶ「日本史」講義(古代編・中世編)』『全世界史(上・下)』『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』『哲学と宗教全史』など著書多数。

――グローバリズムの必要性とグローバル環境で学ぶことの意義について教えてください。

現代の豊かな生活は化石燃料、鉄鉱石、ゴムの3つの資源の上に成り立っています。このことは、近代文明の象徴である自動車や飛行機を見れば明らかです。3つの資源のどれかを持っていれば自国ファーストでもやれますが、アメリカ以外のほとんどの先進国は3つとも持ってはいません。日本も全く資源がないので、他国とグローバルに仲良くやっていかなければ、今の豊かな生活を維持できないのです。

グローバル人材の育成に向けてAPUが行っているのが、混ぜる教育です。1回生は国際学生全員、国内学生の7割が寮生活を行います。ほぼ半数ずつの国内学生と国際学生が混ざることで、世界にはいろいろな人がいることが学べます。APUの学生は約90の国・地域から来ているのでまさに地球の縮図であり、グローバル人材の養成にはうってつけの教育環境にあるのです。

――世界的な新型コロナウイルスの蔓延は、グローバル教育にどのような影響を与えますか。

新型コロナウイルス禍は自然災害です。地球上が目に見えないとても大きな台風に襲われているような状況です。その中でも冷静でいられるのは、グローバリゼーションのおかげです。今年の経済成長率は大幅に下がり、戦後最大の危機といわれているのに株価が暴落しないのは、世界中の中央銀行が連携しているからです。被害がこれだけで済んでいるのも、WHOを中心に世界中がウイルス禍の情報を共有しているからです。『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリも「ウイルスとの闘いに勝つには、グローバルな連携と信頼しかない」と述べています。

コロナ禍は短期と中長期的な影響という、2つに時間軸を分けて考える必要があります。みんながマスクをして頻繁に手を洗う、ソーシャルディスタンディングをとるといったニューノーマルが常態化するといわれていますが、それはおかしい。ニューノーマルは、ワクチンや薬が開発されるまでの短期的な影響です。中長期的にみれば新型コロナウイルスはワクチンや薬が開発されれば従来のインフルエンザと同じになるでしょう。

グローバル教育についても、短期的には後退した印象を受けますが、中長期的には伸びると思います。過去のパンデミックは全てグローバリゼーションを加速しました。14世紀のペストでステイホームを行った象徴がボッカッチョの『デカメロン』です。郊外の別荘に閉じこもって生まれた思想は、神様に祈ってもペストは治らない、即ち人間を信じるしかないということであり、そこからルネッサンスが生まれて世界に広がったのです。つまりペストはグローバリゼーションを加速したのです。

[立命館アジア太平洋大学(APU)]新型コロナウイルス禍の先に加速するグローバル教育

多方面とのリンケージ
強化による人材育成

――コロナ禍の先、今後のAPUの方向性を教えてください。

コロナ禍が終息しているであろう2023年に持続可能な地域開発と観光を学べる学部の開設に向けて動いています。今までの観光は、お城巡りやディズニーランドに行くなど、箱物の発想が強かったのですが、これからは地域で生活をしてその地域の文化や生活に触れることが中心になります。新学部は持続可能な地域開発と観光をセットとして考え、サステイナブルに、かつSDGsに沿った絵が描ける地域開発、観光開発のデザイナーを育てたいと思っています。

次に、APUでは大学だけではなく地域でも勉強をする、民官学のリンケージの強化に力を入れています。九州が元気でなければAPUも元気になれないので、APUが九州の企業や市町村と連携して民官学のリンケージのハブになります。

さらに入口と出口のリンケージ強化にも力を入れています。入口は、これからの日本に求められている、好きなことを徹底的に極める個性派育成の視点からの高大連携の強化です。これまでの偏差値教育だけでは日本はもたないという志を同じくする約30の高校と連携しています。出口は企業とのリンケージ。製造業に向く人材の5要素である「偏差値がそこそこ高い」「素直である」「我慢強い」「協調性が高い」「先生や上司のいうことをよく聞く」に秀でた人だけでは新しいアイデアは生まれず、日本はよくなりません。5要素と関係なく、尖った個性のあるAPUで学んだ学生を欲しいという企業とリンケージしたいと考えています。大学だけで教育をするのではなく、同じ志を持つ高校や企業と連携して、個性を大事にする教育をAPUから日本中に広めたいのです。

――社会が求める人材育成に向け、入試も変わるそうですね。

OECDが求めている学力は、探究力や問いを立てる力。技術進歩が速くなればなるほどすぐに役に立つ知識は陳腐化します。世界はどんどんスピードが速くなっているので、物事の本質を見極める力、探究力、問いを立てる力が大事です。日本における製造業のウエートはGDPの2割を切ろうとしています。世界を引っ張っているのは、GAFAやユニコーンに象徴される新しい産業で、これは全部アイデアから生まれるものです。日本を元気にするにはアイデアを出せる、考えることができる人材育成しかない。前述の5要素型の人間をいくら教育しても、閉塞感は強まるばかりです。

こうした状況を鑑みて、21年度から、探究力の根幹となる自分の頭で考えられる、高い思考力を見極める総合型選抜(旧AO入試)「世界を変える人材育成入試」を実施します。最新の脳科学や心理学の研究によると、学習習慣や好奇心を身に着けるには18歳から19歳がピークといわれています。つまり、高校時代に一番大切なことは、物事を調べて知ることは楽しいという学習習慣を身につけることなのです。社会常識を疑うことは楽しいという教育をしなければなりません。

――APUが求める学生とは。

APUの卒業生が世界に散らばって持ち場をみつけ、そこでAPUで学んだことを生かしながら世界を変えるという主旨を目標に掲げた「APU2030ビジョン」を打ち出しています。行動しなければ世界は変わりません。「人・本・旅」で徹底的に鍛えて、自分の好きなことにチャレンジしてほしい。嫌いなことは長続きしません。好きなことを突き詰めて、世界を変えようという気概のある元気な学生を求めています。

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