共通テストの大幅難化が影を落とした2022年入試

入試 井沢 秀
共通テストの大幅難化が影を落とした2022年入試

写真=立教大学経営学部の「ウェルカムキャンプ」の様子

大学入試センター試験(センター試験)の後継テストとして、2回目の実施となった大学入学共通テスト(共通テスト)の志願者は53万367人。現浪別の志願者を見ますと、過去最高の現役志願率となったことから現役生は0.1%減の44万9369人とほぼ前年並みでした。一方、浪人生は7万6785人で5.2%減です。浪人生が8万人を下回ったのはセンター試験時代も含めて初めてのことで、今の入試が現役生中心になっていることを大きく印象付けました。

現役生が前年並みとなった要因の一つに国公立大人気があります。さらに、私立大の共通テスト利用方式を活用しようと考える受験生が増えた影響もあるでしょう。大半の共通テスト利用方式は、出願するだけで合否が決まります。そのため、コロナ禍で入試のために移動をしたくない。もしくは、罹患して受けられなかったことを想定し、共通テストを受けておこうと考える現役生が多かったようです。

共通テストはセンター試験より難易度が高くなると見られていましたが、初回は前年のセンター試験の平均点を上回りました。そのため、22年は平均点が下がると言われていました。第1回のセンター試験も平均点が高く、翌年の第2回で多くの科目の平均点が下がっており、同じ状況になると見られていたからです。

予想できた共通テストの平均点ダウンですが、多くの受験関係者が「想像以上の下げ幅」と口を揃えるほどの大幅ダウンとなりました。大学入試センターからは公表されませんが、多くの国公立大入試で必要とされる5教科7科目の平均点は、予備校などの算出によると、文系と理系ともに50点程度と前年を大幅に下回りました。

特に難化が顕著だったのは数学で、数Ⅰ・Aは前年を19.72点下回る37.96点。40点を割るのはセンター試験時代を含めて初めてのことです。数Ⅱ・Bは16.87点下回る43.06点でした。数学以外では、21年の平均点が72.64と高かった生物の下がり幅が大きく23.83点ダウン。国語(-7.25)、物理基礎(-7.15)、化学(-9.96)、日本史A(-8.60)、地理A(-8.36)、日本史B(-11.45)、倫理(-8.67)などで平均点が大きく下がっています。

平均点が上がった科目を見ますと、英語がリーディングとリスニングともに3点以上アップしています。リーディングの長文の出題やリスニングの1回読み対策が進んだことが要因となっているようです。平均点が上がった科目には、化学基礎(3.08)や地学(6.07)、世界史B(2.34)、現代社会(2.44)などがあります。

22年の共通テストは、数学以外の科目は概ね大学入試センターが平均点の目安とする5割前後に収まっています。数学以外の問題の難易度は、今後も22年並みで落ち着くのではないでしょうか。

共通テストの平均点が下がっても国公立大志願者は増加

22年の国公立大の一般選抜の志願者は、共通テストの平均点が下がったにも関わらず、19年以来の増加となりました。国立大と公立大で分けると、国立大が30万2953人で7022人増に対し、公立大は12万5704人で3780人減少しました。

共通テストの平均点が下がったのに国公立大の志願者が増えたのは、共通テストの平均点ダウンにより1次試験のボーダーラインが下がっていることを合否判定システムなどで確認し、自分の置かれた状況を冷静に分析する受験生が多かったからでしょう。

国公立大の志願者が増えたのは、難関大志向が強まった影響があります。2次試験のウエートが高い難関大では、共通テストで思うように得点できなかった分を2次試験で挽回できることが、志願者増の要因になっています。難関国立10大学(北海道大、東北大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大、東京工業大、一橋大、神戸大)は全体として志願者が増えています。前年の志願者減の反動とともに、「この大学に進学したい」という思いが、コロナ禍での移動に伴うリスクを上回った面もあったのでしょう。

筑波大や千葉大、横浜国立大、新潟大、金沢大、岡山大、広島大、熊本大、東京都立大、大阪公立大など、難関国立10大学に次ぐ難易度レベルの準難関大で全体的に志願者が減少する一方、一般的な国立大は減少しませんでした。難易度が低い公立大に志望を下げる受験生もいましたが、準難関クラスの受験生が志望を下げて出願したことが要因とみられます。公立大の志願者が減ったのは、受験を諦めてより難易度が低い私立大などに志望変更した受験生が少なくなかったからでしょう。

昨年激減した私立大の志願者が戻る

21年の私立大の一般選抜の志願者は、史上最大といわれる14%の減少となりました。その背景には、21年からの大学入試改革を嫌って20年の内に大学に入学してしまおうと考える受験生が多く、浪人生が大幅に減少したことがありました。さらに、「コロナ禍の移動を避けたい」「合格してもリモート授業でキャンパスに通えないのなら進学する意味がない」などの理由から、地元の国公立大でいいと考える地方の受験生が、大都市圏の私立大受験を止めてしまった影響もありました。

22年の私立大の一般選抜の志願者は、主要100大学の集計で前年を3%程度上回っています。それでも、大幅に志願者が減少する前の20年のレベルまで回復している大学は僅かで、21年に減って22年もさらに減少する大学も少なくありません。難関大を中心に志願者が増えていますが、私立大全体としてみれば、21年入試と同様に、入試のハードルは下がったままと言えます。

私立大の志願者が大きく増えない背景には、総合型選抜や学校推薦型選抜で年内に合格を勝ち取っている受験生が多いことがあります。21年に一般選抜の志願者が大幅に減少した背景には、コロナ禍で一般選抜を受験できない危険性を回避するため、年内の学校推薦型選抜や総合型選抜で合格を決めた受験生が多かったことも影響していました。22年は総合型選抜と学校推薦型ともに志願者が増えました。このことが、中堅から下位の大学を中心に一般選抜の志願者が増えない要因になっており、私立大全体の志願者の伸びが抑えられている要因になっているのです。

難関私立大を中心に個別大学の志願状況を見ていきましょう。21年は大半の私立大で志願者が減少し、志願者が増えた大学は、学習院大や上智大、関西学院大など僅かでした。一方、22年はその反動が見られ、首都圏では慶應義塾大、東京理科大、早稲田大といった最難関大から法政大、明治大といった難関大まで、多くの大学で志願者が増えています。これらの大学に次ぐ難易度の大学では、東洋大の志願者が大幅に増えています。それでも、大半の難関大で20年の志願者数レベルには戻っていないので、入試が極端に難化したわけではありません。

志願者ランキングのトップは9年連続の近畿大で、18年以来の志願者増となりました。2位の千葉工業大は、コロナ禍で経済状況が苦しい家計が増える中、昨年に続き共通テスト利用方式の受験料を無料にしたこともあり、14万人近い志願者が集まっています。

昨年は志願者が10万人を超える大学はこの2大学だけでしたが、22年は法政大と明治大が10万人台に回復しています。共通テストの平均点が下がったため、国公立大志望者が難関私立大の併願を増やした影響と見られます。MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)では、青山学院大も志願者が増えています。同大は、21年に大半の学部で共通テストと大学独自試験を組み合わせた入試方式を導入しました。この入試改革の影響で志願者が大幅減となった反動が見られます。立教大は21年に数少ない志願者増の大学となりましたが、その反動で減少しています。23年に法学部が八王子キャンパスから茗荷谷キャンパス(文京区)に移転する中央大は、その効果から志願者が増えると見られていましたが、検定料割引の見直しにより学内併願者が減少したこともあり減っています。それでも、併願数をカウントしない実志願者数は前年を上回っているようです。

早稲田大は、政治経済学部と国際教養学部、スポーツ科学部が青山学院大と同様の入試改革を行ったこともあり、大学全体として3年連続で志願者が減っていましたが、22年は増加に転じています。政治経済学部の志願者は連続で減りましたが、基幹、先進、創造といった理工系3学部の志願者増などが志願者増の背景にあります。それでも、前年に49年ぶりに10万人を割り込んだ志願者数は大台を回復しませんでした。慶應義塾大は昨年まで4年連続で志願者が減少し、21年は平成以降最小の志願者数になりましたが、22年は増加に転じています。早慶以外の最難関大では、上智大の志願者は、昨年の反動で減少しましたが、東京理科大は大きく増えています。

関西の難関大は、首都圏と同様に前年の志願者減の反動と国公立大志望者の併願が増えたことなどにより、関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)では、立命館大と関西学院大の増え幅が大きく同志社大も増加。関西大は微減となりました。

日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)では、東洋大の志願者が大きく増える一方、日本大が減少することにより、志願者ランキングで東洋大と日本大の順位が逆転しました。

社会状況の不透明さから学部志望動向は「理高文低」

学部志望動向は、社会状況が不透明で就職状況に不安感を感じる受験生が増えると表れる、理系学部の人気が高く文系学部の人気が低い「理高文低」となりました。理系学部の人気が高まるのは、理工系など就職に強い学部系統が多いからです。

22年入試では、理工系や農学系、生命系の志願者が増えています。農学系はしばらく人気のない時期が続いてきましたが、22年は増加に転じました。

就職に有利な資格が取得できる医療系では、看護系と薬学系が増えています。薬学系の志願者増の背景には、就職に有利な資格が取得できることに加え、コロナ禍でワクチンや治療薬の重要性がクローズアップされたこともあります。医療系では医学系の志願者が微減。作業療法士や理学療法士などを養成する医療技術系も増えていません。

文系では、カリキュラムが公務員試験受験に向いている法学系の人気が高くなりました。経済・経営・商学といったビジネス系では、実務に近い学びに対する期待感から、経営の志願者が増えています。経済系と商学系は減少しました。社会学系は志願者が増えました。文・人文学系は就職に強い系統ではありませんが、この分野を学びたいという受験者層に支えられて堅調でした。社会福祉系は文系の中で就職に有利な資格が取得できる学部ですが、前年の志願者を下回りました。

コロナ禍で人気が下がっていた国際系は前年並みです。コロナ禍が在学中の4年間続くと考えず、グローバルな学びに期待する受験生が増えたのでしょう。一方、外国語系は引き続き志願者が大幅に減少しています。

コロナ禍でリモート授業を経験するなど、IT化社会への関心が高まり、AI(人工知能)技術やIoT(モノのインターネット)技術が注目される中、文系と理系両方の学問分野がある情報・メディア系の指数は志願者の増加率が最も高い学部系統となりました。情報工学や通信技術、データサイエンスなどが高倍率になっています。文系と理系をまたぐ学部系統では、教育学系も志願者が増えています。資格系では、管理栄養士などの資格が取得できる、家政・栄養学系も志願者が増えました。

これからの入試は多面的評価が進んでいく

22年は共通テストの平均点が大きく下がりましたが、23年は各校で新しい出題傾向への対策が進むことから、平均点が上がると見られています。

私立大の一般選抜の志願者は、21年の大幅な志願者減を受けて増加に転じましたが、志願者は大きく減ったままです。今後、少子化が進みますから、入試は無競争時代に突入していくことになるでしょう。21年の私立大入試では、入学者数が入学定員を下回り、大学を選ばなければどこかの大学に入れる「全入状態」となりました。もちろん、一部の難関大には志願者が集中する状況は変わりませんが、それでも以前よりは入試は確実に緩和されていきます。難関ではない大学には、年々入りやすくなっていくことは間違いないでしょう。

入試の多様化も進みます。一般選抜だけではなく、総合型選抜や学校推薦型選抜の募集人員も増えていくと見られます。文部科学省は、この二つの選抜にも学力を求めており、同時に一般選抜の受験生にも高校での活動歴などを求めています。

これからの入試は、多面的評価になっていくことは間違いありません。そうした動きの中で、高校時代の活動を入試の評価に求められる時代になってきています。勉強さえしていればいい、部活動さえしていれば大学に進学できる時代は終わり、何事にも積極的に取り組む学生を大学は求めているのです。