今春の国公立大入試と今後の展望

入試 井沢 秀
今春の国公立大入試と今後の展望

写真=東京大学

受験生の人気が高いにもかかわらず、受験人口の減少などにより志願者が減ってきた国公立大の一般選抜ですが、2022年入試では増加に転じました。22年入試を振り返り、23年の国公立大入試の動向について見ていくことにしましょう。

2022年入試は、大学入学共通テストの平均点が大きく下がりました。通常は共通テストの平均点が下がると、国公立大の志願者は減少するものですが、22年の国公立大一般選抜の志願者数は42万8657人(国際教養大など独自日程の大学を除く)で、21年を3242人上回りました。近年、国公立大の志願者は減少が続いてきましたが、19年以来の増加になりました。

国公立大の志願者が増えた背景の一つに、難関国立大人気の高さがあります。共通テストが難化しても難関国立大志望者は出願を諦めなかったのです。難関大志望者の後押しをした一因は学校の指導力です。難関大を目指す生徒が多い学校では、共通テストの平均点が下がったことを冷静に分析して、2次試験勝負ということを生徒にしっかり伝えていたために、逆風下でも志願者が増えたと見られています。

旧七帝大(東京大、京都大、北海道大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大)に東京工業大、一橋大、神戸大を加えた難関国立10大学の内、志願者が前年を下回ったのは、東北大と名古屋大、神戸大の3大学のみでした。

21年は、コロナ禍で移動を嫌う受験生の影響が大きく、東京大や京都大、北海道大といった、全国から受験生が集まる大学で志願者が減少しました。その反動もあり、22年は3大学すべての志願者が増加に転じています。

共通テスト平均点ダウンの影響を受けた準難関大

共通テストの平均点が下がった影響を大きく受けたのは、筑波大や千葉大、横浜国立大、新潟大、金沢大、岡山大、広島大、熊本大、東京都立大、大阪公立大などの準難関大志望者です。

準難関大は難関大ほど2次試験のウエートが高くありません。そのため、共通テストの平均点が下がった影響から、志望大学の難易度を下げた受験生が多かったようです。首都圏では、早慶上智(早稲田大、慶應義塾大、上智大)やMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)などの難関私立大に志望変更した受験生もいたようです。そのため、筑波大や千葉大、東京都立大、横浜市立大など、首都圏の国公立大で志願者が減少する大学が目立ちました。

首都圏で志願者が減少する大学が多くなる中、大きく増えたのは横浜国立大です。同大は、コロナ禍対応のために、21年入試で大半の学部の2次試験を取り止めたことで、志願者が3392人減となりました。志願者が大幅減となったのは、2次試験で逆転ができないため、ボーダーライン上の受験生が出願できなかったからです。ただ、22年の志願者は増えましたが、20年の志願者数を上回ったわけではありません。

22年は、国公立大一般選抜の志願者数ランキングでトップを続けてきた千葉大を大阪公立大が抜いたことが話題になりました。大阪市立大と大阪府立大の合併により22年度に誕生した大学です。もっとも、多くの志願者が集まりましたが、大阪市立大と大阪公立大を合わせた21年の志願者数には及ばず、他の準難関大と同様に志願者は減少しています。

準難関大の中でも、新潟大や金沢大など地域の拠点大は志願者が増えました。受験生心理が変化し、コロナ禍で制限されていた移動距離が、「地域内ならいいだろう」と広がったことが一因のようです。そのため、地域の拠点大の中では、弘前大や福井大、徳島大、長崎大なども志願者が増えました。

準難関大に次ぐレベルの一般的な国公立大は、全体として志願者が減っていません。共通テストの成績のウエートが高いため、より難易度の低い公立大や私立大に出願先を変えた受験生がいる一方で、安全志向から準難関大クラスを目指していた受験生が出願したことが背景にあります。

国公立大の学部志望動向について見ていきましょう。22年は、社会状況が不安定になると見られる中、理系の人気が高く文系学部の人気が低い、「理高文低」となりました。

理系学部では、これまで人気が下がってきた農・水産系が増加。理学系や工学系も志願者が増えました。医療系では、コロナ禍でワクチンや治療薬の注目が集まる中、薬学系の志願者が増えています。医学系の志願者も増える一方、歯学系や保健衛生系の志願者は減少しました。

文系では文・人文系が増加。公務員人気から法学系も志願者が増えています。経済、経営、商学系は前年並みでした。留学に出られないなど、国を超えた移動が制限される中、志願者が減少していた国際系が増加に転じた一方、外国語系は相変わらず人気が戻っていません。

文系と理系をまたぐ分野では、人気が高まり難化した情報系の志願者が減少しました。教員養成系は志願者が戻っていません。一方、スポーツ系や芸術系は志願者が増えました。

23年入試では国公立大人気がさらに高まる

23年の国公立大入試は、どうなるのでしょうか。22年入試において、共通テストの平均点が大幅に下がったにもかかわらず志願者が減らなかったように、国公立大人気は根強いものがあります。25年の新課程入試を前に、23年は大きな入試改革はありません。加えてウクライナ危機で経済が悪化することになれば、学費が安い国公立大の人気はさらに高まるのではないでしょうか。コロナ禍の影響が弱まれば、受験生の移動が活発になるのでなおさらです。

共通テストの平均点が上がる見込みであることも国公立人気の後押しをしそうです。22年は共通テストの数学の出題形式が変わり、大幅に難化したことから平均点が大きく下がりましたが、23年は各校の数学対策が進むことで、共通テストの平均点が22年ほど低くならないと見られているからです。

大学の難易度別の状況を見ると、難関国立10大学は、22年入試で共通テストの平均点が下がったにもかかわらず、全体の志願者が増えたことから分かるように、人気は継続すると見られます。22年入試で準難関大は全体として志願者が減少しましたが、23年は共通テストの平均点が上がると見込まれていることから、増加する可能性が高いのではないでしょうか。共通テストの平均点が上がれば、一般的な国公立大の志願者も増加すると見られます。

学部志望動向は、コロナ禍やウクライナ危機で経済状況の悪化が見込まれる中、就職に強い理系学部の人気が高まり、「理高文低」の傾向がさらに強まるでしょう。22年入試で人気だった情報系の人気はさらに上がると見られ、医学部を中心とした医療系の志望者も増えそうです。一方、文系学部では公務員人気から法学系の人気が上がりそうです。国際系は在学中にコロナ禍は明け留学に出られると考える受験生が増えると、志願者がさらに増えるかもしれません。

23年入試は大きな変化はありませんが、コロナ禍という不確定要素は残ります。大学はホームページなどで頻繁に入試情報発信をしているので、志望校の状況をこまめにチェックすることをお勧めします。