神田外語大学が、今年オランダで発見された「長崎屋宴会図」を初公開 11月1日~14日、同大附属図書館企画展にて
2019年2月、オランダ商館長一行の江戸の定宿、長崎屋で開かれた仮装パーティーの様子を描いた水彩画が、オランダで発見された。将軍家侍医桂川甫賢(かつらがわ ほけん)が1822年4月18日に行われた宴会を描いたもの。江戸時代日欧文化交流史の一級史料として注目される。神田外語大学附属図書館では、このたび本品を購入し、企画展「長崎屋の二階―シーボルト以前の蘭学開花―」において公開する。
江戸の長崎屋は日本橋本石町3丁目(現在の中央区日本橋室町4丁目2番地付近)にあり、江戸時代を通じて、長崎出島のオランダ商館長一行が年に一度(1790年からは4年に1回)将軍拝礼のため参府したときの定宿だった。18世紀後半、蘭学が勃興すると平賀源内、杉田玄白、前野良沢ら蘭学者、オランダ趣味の大名、その家臣らが押し掛け、学術文化交流の拠点となった。
「長崎屋宴会図」は、図の下部の余白に記されたオランダ語の説明文と署名から、宴会に参加した将軍家侍医で蘭学者の桂川甫賢自身が文政5年2月27日(1822年4月18日)、長崎屋の2階広間で催された仮装パーティーの様子を描いたものと分かる。
図中、2人のオランダ人、商館長コック・ブロムホフと一等書記のファン・オーフルメール・フィッセルが和服を着て、座布団の上に座っている。床の間の前の上座には、日本人蘭学者3人がオランダの衣服を着て帽子をかぶっている。
一番左の椅子に座っているのは、幕府天文台の翻訳官馬場佐十郎貞由。中央は絵を描いた本人、将軍家侍医・植物学者の桂川甫賢。椅子の前に立っている蘭学者は中津藩主奥平昌高の側近、神谷弘孝(ひろよし、源内)である。馬場佐十郎にはアブラハム、桂川甫賢にはボタニクス、神谷弘孝にはファン・デル・ストルプというオランダ名が書き込まれている。画面前面のオランダ通詞らしい和服の日本人にもオランダ名が見える。画面右端の中央には長崎屋主人、源右衛門、その前後には接待役の日本人女性が描かれている。画面右下には主人の友人らしき日本人も控えている。
ドイツ人医師シーボルトが来日する1823年の前年に開催されたこの宴会の図は、シーボルト以前にオランダ語力を格段に向上させていた蘭学界、当時の日本人のオランダ趣味、オランダ人の日本趣味、日欧の服飾史、建築史、食文化史など多方面にわたって、実に豊富な情報を伝えている。
2019年11月1日(金)~14日(木)に開催する神田外語大学附属図書館の企画展「長崎屋の二階―シーボルト以前の蘭学開花―」では、上記の「長崎屋宴会図」(1822)を中心に、ナポレオン戦役銅版図・メダル(1815頃)、宇田川榕菴・辻蘭室筆「ジャワ植物図譜」(1818年頃)、蘭和辞典ドゥーフ・ハルマの宇田川家蘭学塾写本(1816成、1828写)、中津藩主奥平昌高の企画によって出版された日蘭辞典『蘭語訳撰』(1810)、外来語辞典『バスタールト辞書』(1822)、シーボルトの賀来佐之(かく すけゆき)宛て自筆書簡(1828)など同大所蔵の貴重洋学資料に加え、最後の4日間には葛飾北斎「日本橋長崎屋」図―『画本東都遊』(えほんあずまあそび、1802)の林忠正旧蔵本(帰雲所蔵)所載―も展示する。
同大では「この企画展が19世紀最初の四半世紀における日本文化を多角的に考察する一助となれば幸いです」としている。
※事前申込不要・参加費無料・一般来場歓迎。
また、開催期間中の11月14日(木)には、同大日本研究所客員教授であり京都大学名誉教授の松田清氏による、「長崎屋宴会図」をテーマとする講演会が開催される。事前申込不要・参加費無料。詳細は下記参照。
- (1)神田外語大学附属図書館主催・展示会
- 【日 時】 2019年11月1日(金)~14日(木)10:00~16:00
【場 所】 神田外語大学7号館附属図書館グループ室5 ※日曜日は休館
【問合せ】
同大附属図書館
TEL: 043-273-1192
- (2)神田外語大学日本研究所主催・講演会「長崎屋宴会図を読む」
- 【日 時】 2019年11月14日(木)16:30~18:00(5限)
【場 所】 神田外語大学4号館4-101教室
【講 師】 松田 清 先生(神田外語大学日本研究所客員教授、京都大学名誉教授)
【問合せ】
同大日本研究所
TEL:043-273-1389
●松田 清(まつだ きよし)
1974年 名古屋大学大学院文学研究科 修士課程退学
2007年 京都大学博士
京都大学名誉教授
2015年 神田外語大学 日本研究所 客員教授
[著書(共著も含む)]
『洋学の書誌的研究』(2000年第19回新村出賞受賞)、『講談社オランダ語辞典』、『山本読書室資料仮目録』、『杏雨書屋所蔵宇田川榕菴植物学資料の研究』