100年の伝統を未来へ繋ぐ、立正大学「地図で見る江戸・東京」展レポート
江戸から東京へ、地図という名の「都市の履歴書」を読み解く

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100年の伝統を未来へ繋ぐ、立正大学「地図で見る江戸・東京」展レポート 江戸から東京へ、地図という名の「都市の履歴書」を読み解く

立正大学は、日本の地理学研究における先駆者として、多大な実績と伝統を築き上げてきました。その伝統は深く、1925年に専門部歴史地理学科が設置されたことに始まり、2025年にはその創設から100周年という記念すべき節目を迎えました。文学部地理学科を経て、現在は地球環境科学部地理学科として、同大学は人文・自然地理学、地図・GIS、そして実習を重視する「フィールド主義」の教育を伝統として継承しつつ、現代的な視点からの地域研究を展開しています。この度、地理学教室100周年を記念する事業の一環として、2025年11月に開催された「地図で見る江戸・東京」展を見学いたしました。本稿では、その貴重な展示内容などについてレポートします。

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長禄年間江戸圖

重なり合う「江戸」と「東京」 地図上に現れる歴史の連続性

「地図で見る江戸・東京」展は、立正大学地理学教室が長年にわたり収集・研究してきた貴重な地図資料の中から、特に江戸・東京の都市形成の歴史を紐解く上で欠かせない貴重な資料を厳選して構成されていました。単に古い地図を並べただけの物ではなく、約400年前の「江戸」から「東京」に至るまでの都市の変遷を、地理というレンズを通して体感できる、知的好奇心を刺激する空間となっていました。

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明治元年東京全図

本展示は、大きく分けて四つのテーマで構成されていると感じました。まず、大名屋敷や寺社の配置、水路など、軍事・政治の中心としての姿を描いた「近世江戸の地図」。次に、鉄道やインフラ整備により急速に近代都市へと変貌を遂げる「明治以降の変遷」。そして、関東大震災や戦災後の復興計画から都市の破壊と再生を物語る「災害と復興の地図」。最後に、戦前東京の完成形ともいえる精密な「昭和初期の都市地図」です。

これらの地図が並ぶことで、一つの都市がいかに長い年月をかけて構造を変化させてきたのかが視覚的に理解できるようになっていました。特に、江戸から東京への過渡期の地図には、失われた武家屋敷の跡地に鉄道や官公庁、工場が建設されていく様子が克明に記録されています。現代の東京では地下に埋もれてしまった河川や堀、そして広大な大名屋敷の敷地が、そのまま現在の道路や公園、土地区画の基礎となっていることが地図上で確認でき、歴史が都市の形を決定づけているのだと強く実感しました。

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御江戸圖

その中でも、最も印象的だったのは、その当時の情景が伝わってくるほど緻密に描かれた「近世江戸の地図」です。整然と並ぶ広大な武家地、賑わいを感じる町人地、そして戦略的に配置された寺社。これらが明確に区分された町並みからは、当時の身分制度がどれほど厳格で、生活と密接に関わっていたかがはっきりと伝わってきます。

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江戸大地震大火方角附

また、「災害と復興の地図」として、関東大震災前後の比較展示も大変興味深いものでした。大火によって壊滅的な被害を受けた東京が、いかに復興を遂げたか。震災直後の被害マップと、その後の復興計画による直線的な道路整備、公園の配置が地図上で対比されており、現在の東京の骨格がこの時期に形成されたことがよく理解できます。

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「フィールド主義」の神髄 古地図から現代の学びに繋ぐ

会場の中には、現在地球環境科学部地理学科が、国内外で展開しているフィールドワークに関するパネルも展示されていました。1年生のフィールドワークでは、地形図の読図やルートマップの作成、記録の取り方など、野外調査の基礎的な知識・技能の習得が徹底して図られています。今回の企画展で目にした「古地図」と、学生たちが授業や実習で扱う現代の「地形図」を重ねて考えることで、より解像度の高い理解が得られるでしょう。「この場所はかつて海だったのか」「この高台は自然地形の名残なのか」、こうした問いは、座学だけでは生まれません。実地での観察と地図の比較という、地理学的な思考を経て初めて導き出されるものです。

地理学は、地名や産物などを暗記する学問だと誤解されがちですが、そうではありません。それは、「場所」と「人間活動」の関係性を読み解き、現代社会の課題解決や未来の予測に挑む、極めて実践的な学問といえるでしょう。

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新町名番地入最新大東京全圖

「地図で見る江戸・東京」展は、単なる古い時代の地図の展示ではなく、地理学という学問を通じて、私たちが暮らす都市の歴史、文化、そして未来へのつながりを深く考える機会を与えてくれました。地図とは、土地の形状を示すだけでなく、その時代の社会構造、技術水準、人々の生活の営みを克明に記録した「都市の履歴書」である。そのことを、本展は改めて認識させてくれました。東京という都市をより深く知りたい方、地理や歴史に関心のある方には、ぜひともお勧めしたい展示会でした。