多摩美術大学が日本初の「デザイン経営」人材育成のための講座 「TCL-多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム」を来春開講
~国内トップレベルのビジネスとデザイン業界の実力者が集結、デザイン×ビジネスのハイブリッド人材育成で「デザイン経営」の社会的実装を目指す~
学校法人多摩美術大学(所在地:東京都世田谷区、理事長:青柳正規、学長:建畠晢、以下「本学」)は、「デザイン経営(※)」 を社会に実装する日本初の試みとして、ビジネスパーソンを対象とした「TCL-多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム」(以下「TCL」)を2020年春に開講する。本プログラムを通じ、デザインとビジネスを掛け合わせたハイブリッド人材を育成することで、デザインの方法論でビジネスをドライブさせる「デザイン経営」を社会実装させ、グローバル環境における競争力強化に欠かせないブランド力向上やイノベーション創出などに貢献することを目指す。
背景
昨今、「VUCA(※)」という言葉に代表されるように、先行きが見えない中で成長が求められるという状況にあっては、感性を重んじて新たなビジネスモデルや製品を創出できる人材が必要という考えが広がってきている。
そうした中、デザイナーが常に行ってきた方法論、例えばユーザー視点で社会のニーズを見極め、新しい価値に結び付けるといった考え方をビジネスに取り入れることに注目が集まっており、欧米ではイリノイ工科大学やアアルト大学、パーソンズ美術大学など、デザインとビジネスの垣根を超えた人材を育成する高等教育機関の重要性が高まっている。
一方、日本国内ではビジネスとデザインを掛け合わせた課題の発見や解決ができる人材を育成する高等教育は立ち遅れており、2018年に発表された経済産業省と特許庁による「『デザイン経営』宣言」においても、事業課題を創造的に解決できる「高度デザイン人材」を育成すべきとの政策提言を行うなど「デザイン経営」の社会実装は急務となっている。
本学は1935年の創立以来、常に芸術の先端を切り拓き、枠にとらわれない発想と新たな価値の創出を重んじる教育を展開してきた。卒業生は延べ42,700名余に及び、デザイナーや芸術家のみならず、ゼロからイチを生み出す教育で得た「課題発見力」を武器にビジネスや社会貢献などの分野で活躍する人材を多数輩出している。また、情報デザイン学科(1998年)や統合デザイン学科(2014年)などの設置によって世の中のニーズをカリキュラムとして社会実装してきた。
この度、本学はTCLを開講し、実業界との結びつきを活かして最前線から講師陣をお迎えし、本学の経験豊かな講師陣とその知見を集約し、自らの意思を持って主体的に働きかけ、環境そのものを創りだす力を持った、デザインとビジネスの領域を架橋できるハイブリッド人材の育成を目指す。
本プログラムの特徴は以下の通り。
各業界の最前線で活躍する実務家を講師陣として招聘
HAKUHODO DESIGNの代表取締役社長であり「東京ブランド」をはじめとする様々なプロジェクトのアートディレクター、クリエイティブディレクターとしてブランディングにおいて第一線で活躍し、実務家としての実績とアカデミックのバックグラウンドを持つ本学統合デザイン学科教授の永井一史をTCLエグゼクティブ・スーパーバイザーとし、IDEO Tokyo立ち上げに参画した元IDEO Tokyoデザインディレクターの石川俊祐氏、戦略デザインファームBIOTOPE代表の佐宗邦威氏、本学生産デザイン学科教授の濱田芳治、本学TCL特任准教授の丸橋裕史などを中心に行う。
講義+Project Based Learning型で構成されるプログラム
午前はトピックスに合わせたゲスト講師による講義。午後は5人×6グループで現状分析や課題発見、コンセプト設定やアウトプット作成までを行うProject Based Learning型のプログラム(以下「PBL」)。PBLとはプロジェクトをベースにした実践型・参加型の学習形態で、異なる知識やスキルを持った人が集まり、プログラムを通して触発しあうことで、幅広く柔軟な考え方や新たな創造を生み出す場。本学では2006年度から正規カリキュラムとして採用しているスタイルである。
修了後もつながり続ける人的ネットワーク環境を整備
修了生同士のネットワークや修了後も講師陣とつながる環境を整備し、「デザイン経営」の社会での実践をサポートすることを計画中。具体的には修了後に「フォローアッププログラム」を実施するほか、修了生同士のコミュニティ「TCLアルムナイ」を組織し、活発な情報交換の場となるよう整備する予定である。
今後の展望
段階的にプログラムを多様化させ、3年間で約400人の修了生輩出を目指す。さらに「TCL Lab(仮称)」を設立し、多彩なゲスト講師陣も含むネットワークを構築することで「デザイン経営」に関する教育機能や研究開発の拠点とするだけでなく、ソリューション業務などにも活動の枠を広げ、海外を含む他大学・機関・企業との連携も視野に入れている。
(注釈)
※デザインとは:アートとデザインはいずれも常識を疑い、新たなものを創り出すという点でクリエイティブと言われるが、アートが自己の感性を頼りに表現を追求するのに対し、デザインは「モノ」や「コト」のあるべき姿や「ヒト」とのより良い関係を見出し、それを達成するためにふさわしい形や解決策を得ることを目的とする。
※デザイン経営とは:2018年5月に経済産業省と特許庁が発表した「『デザイン経営』宣言」によれば、デザイン責任者が経営チームへ参画することやデザイナーが事業戦略の最上流から参画することを通じて、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営のこと。
https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf
※VUCAとは:Volatility[激動]Uncertainty[不確実性]Complexity[複雑性]Ambiguity[不透明性]の頭文字を取ったもので、ビジネスの文脈では社会の変容が加速し、複雑で混沌とした現代の環境を指して使われる。
- 学校法人多摩美術大学 理事長 青柳正規
- 「バブル崩壊とそれに続く空白の20年を経てかつてのサクセスストーリーを追い続けた結果、日本は得意分野であったものづくりをはじめとして競争力を失っています。さらには人口が減少し市場が縮小していく中、現状を突破し国際的な競争力を発揮するために必要であるのが文化的素養であり、デザイン思考です。GoogleやAppleなどはアートやデザインを担当する役員CCO(Chief Creative Officer)やCDO(Chief Design Officer)がおり、企業の浮沈を決めるような重要な意思決定を行っていますが、わが国ではその役割を担う人材が不足しているのが現状です。多摩美術大学にはこの分野における蓄積があり、TCLを通じて社会に貢献できるものと確信しています」
- 多摩美術大学 学長 建畠晢
- 「デザイン思考とは、いわゆるデザイナーの世界のみに必要とされるものではありません。分野のいかんを問わず、広範な視野と柔軟な発想によって課題に取り組み、それを解決に導くためのツールとなる現実的な能力です。グローバリズムの波が押し寄せ、ますます多様化しつつある社会での企業活動にとっても、今後、不可欠なプラットフォームを形成するものといえるでしょう。本学ならではの優れた人脈とノウハウを生かしたTCLは、まさしくデザインの方法とビジネスの方法が直結する実践的なカリキュラムによって、経営のいかなる課題にも対応しうるような、また大胆なイノベーションをもたらしうるような人材育成を目的としています。TCLに学ぶさまざまな業種の方々の交流の機会もまた有意義な経験となるに違いありません」
- 多摩美術⼤学 統合デザイン学科 教授 永井⼀史
- 「近年、ビジネスにおいてイノベーションが大きな経営課題となるに伴い、”デザイン思考”など、ビジネスパーソンのデザインに対する関心は急速に高まっています。しかし、方法論のみが先行し、型通りにやれば創造性が生まれるという誤解も拡がり、デザインについての正しい知識と理解を促すことが急務です。デザインには知識創造と具現化の両面がありますが、”デザイン思考”の浸透によって、産業界においては知識創造への偏りがあり、具現化の重要性も伝えていくことが美術大学の大きな役割だと考えています。また”デザイン経営”など重要なコンセプトが発表されているものの、その社会実装の方法論は、残念ながらまだ提示されるまでには至っていません。このプログラムでは、実行性のあるプログラムを提供し、ビジネスとデザインを架橋できる人材を育成することで、従来の美術大学とは違うアプローチでデザインを社会に拡げていきたいと考えています」