国際学生寮でグローバル人材を育成

グローバル人材の養成を目指し、大学入試において「読む、書く、聞く、話す」といった英語の４技能を問う傾向が強まっている。しかし、グローバル人材を養成するには、語学だけでは物足りない。生活習慣の違う国の文化に触れ多様性を理解することが不可欠だ。そうした感性を養成するため、留学制度を充実させる大学が増えている。一方、国内にいながら海外からの留学生との交流の環境を整備する大学も多くある。

そうした施設の一つが、外国からの留学生と共同生活をする国際学生寮。国際学生寮の有効性は、京大が５年間一貫の大学院教育を行う総合生存学館（思修館）において、日本人学生と留学生が合宿研修施設で学ぶ手法を選択したことからも明らか。グローバルリーダーの育成を目指す思修館では、異文化社会におけるリーダーシップ力を育成する教育環境として、全ての学生が寝食を共にする寮生活を活用しているのだ。

国際学生寮のプログラムでグローバルリーダーを養成

思修館は特定の大学院生が対象だが、一般の学部生や大学院生を対象とした国際学生寮を持つ大学は、京大を含め数多くある（「国際学生寮を持つ主な大学」参照）。表中、最も規模が大きいのは、留学生の受け入れ数が日本一の早稲田大。18の寮の収容定員は２２６５人に上る。国立大では、東北大と東大が２０００人近い収容定員の国際学生寮を持っている。表中には、日本人学生と留学生ともに１年間の入寮義務がある国際教養大や、留学生のみ入寮義務がある立命館アジア太平洋大のようなケースもある。

国際学生寮が教育の実践の場になるケースもある。早稲田大が14年春に開設した、国際学生寮ＷＩＳＨ（Waseda International Student House）は、グローバルリーダー養成の重要な施設と位置づけられている。収容定員は８７２人で、早稲田大の学生規模からすれば多くはないが、同大全体のグローバル化の核となる人材養成を期待されている。入寮期間は入学時から２年間だが、その間、留学生と行うグループワークであるＳＩ（Social Intelligence）プログラムを通し、異文化理解はもちろん、正課プラスアルファの知識の獲得を目指す。ＳＩプログラムの成績優秀者には、大学が原則として費用負担をする海外研修が受けられる。

専修大は、「寮内留学プログラム」において、日本人学生と留学生がルームシェアすることにより、異文化理解や国際コミュニケーション力を深める。また、創価大は教員アドバイザーによる「テーマ講演会」からテーマを見つけ、活発なディスカッションを行うなど、多くの大学で国際学生寮の特性を生かした取り組みが行われている。

留学生との共同生活から得られる主体性と協働性

特別なプログラムが無くても、国際学生寮では多様な国籍の留学生との共同生活を通じ、価値観や感性の違いを理解することの大切さを体験できる。さらに、そこで生じる課題を解決する過程において、主体性と協働性のバランスが取れた人材が養成される。国際基督教大は、学内の寮を教育寮と位置づけている。17年に樅と楓の2つの国際学生寮を竣工し、学生の３人に１人が国際学生寮で生活する国際基督教大では、キャンパス内に点在する寮ごとのルールを、学生が中心になって決める。その際の異なる生活環境で育った留学生との話し合いを通して、異文化間の折衝能力が身に付くという。学内には教員の寮もあり、24時間交流が可能だ。

国際学生寮は一般的なアパートやマンションより住居費が低く抑えられることもメリットの一つだが、経済的困窮度や居住地など、様々な条件があり、入寮希望の動機を問われることも多い。京都産業大が京都における国際的な学術・文化交流の拠点と位置づける国際交流会館Ｉ-Ｈｏｕｓｅ（International House）に入寮するには、「人間が好きで異文化に興味がある」「留学生たちとの学内のイベント企画や実行を積極的にできる」など９つの条件がある。この条件を満たしていれば、特に居住地の制限はない。前出の早稲田大も、経済状況などの入寮条件はあるが、居住地の制限は設けていない。

国際学生寮に入寮することにより、親元を離れて身につく自立心とともに、タフなグローバル環境に耐えられる下地の醸成も期待できる。さらに、卒業後に世界的な人的ネットワークを獲得できることも魅力だ。グローバル化がさらに進むこれからの時代は、国際学生寮の有無が大学選びのポイントの一つになりそうだ。

国際学生寮を持つ主な大学