多くの学校が新型コロナウイルスにより休校を余儀なくされる中、金沢工業大学（石川県野々市市）は4月からインターネットを用いた遠隔授業を実施している。オンラインでの授業にいち早く移行できた背景には、各科目に関する情報に学生が「ワンストップ」でアクセスできる「e-シラバス」の存在があった。遠隔授業の実施事例や、その核となる「e-シラバス」の授業への活用などについて、同大副学長（教育支援担当）の鹿田正昭教授（工学部環境土木工学科）が語る。
鹿田正昭副学長
金沢工業大学の今年度の授業は、通常よりも1週間遅い4月20日からオンライン上で始まった。
授業は大きく分けて2つの方法で行われる。一つは、事前に講義を録音・録画したパワーポイントなどのファイルを作成して、オンデマンドで配信する形。もう一つが、「Zoom」などのビデオ会議システム上でリアルタイムに授業を行う形である。「Moodle」というe-ラーニングのサービスを活用する授業もある。
教員の負担となりがちな資料共有や出席管理といった事務作業には、学内ポータルサイト「e-シラバス」を活用している。e-シラバスには、授業内容や評価基準など通常のシラバスに記載される情報に加え、配布資料や参考資料、関連ページへのリンク、レポート提出機能、授業後に学生が授業の振り返りを記入する「自己点検」機能、学習状況の達成度が分かる機能などが集約。各科目に関わるすべての情報に「ワンストップ」でアクセスできるようになっている。
このe-シラバスは、金沢工業大学が従前から取り組んできた、学習状態を可視化する取り組みの中で生み出されたものである。日々の学習をデジタルデータとして蓄積し、身につけた力はレーダーチャートの形で表示されるので、学生は大学生活でどんな能力を伸ばしてきたかを自ら振り返ることができる。平時には反転授業など「学生同士の学び合い」への活用も進んでいる。
e-シラバスは教員にとっても便利で、遠隔授業にも大いに役立っていると鹿田副学長は説明する。
「紙で配る予定だった資料はe-シラバスにアップロードすれば学生と共有できますし、オンライン授業へもe-シラバスからワンクリックでアクセスできます。教員がリアルタイムに書き込めるスペースが用意されているので、授業中に新たな資料を配信したり、クイズを出して回答させたりすることも可能です」
座学に関しては対面授業とほぼ同等のことができる、と鹿田副学長は言う。レポートや試験もe-シラバスを活用すれば、時間を区切って行うなど問題なく実施できる目処が立っている。
遠隔授業のメリットとして挙げられるのは、学生の出席率が高いこと。一方で課題もある。実習や実験はオンラインで行えず、授業中の学生のリアクションも把握が難しくなる。実験をビデオに撮って見せる、口頭での質問やチャット機能を活用するなどの工夫が必要だ。
ほとんどの学校が普段通りの授業を行うのが難しい状況にあるが、オンデマンドの授業を作っておくなど、流行の再発を見越してオンライン授業にスムーズに移行できる体制づくりを進めることが大切である。
鹿田副学長は、「各校のICT環境によりできることに差はあったとしても、それぞれの先生の能力と各学校が持つハードウェアを駆使しながら、ぜひ前向きな気持ちで取り組んでみてほしいと思います」と教育関係者に向けてエールを送っている。