自ら行動し、考える力を養う「和洋コース」を開設。社会を“複線化”することで活力を生み出していく
1897年の建学以来、“社会で活躍する女性”を育てることを使命として教育に取り組んできた和洋女子大学(千葉県市川市、学長 岸田宏司)。2020年4月からは、併設の和洋国府台女子高等学校(千葉県市川市、校長 宮崎康 ※崎は正しくは「立つ崎」)と連携し、「和洋コース」というユニークな学びに乗り出す。その内容や狙いについて、和洋学園で理事長を務める長坂健二郎氏に話をうかがった。
- <和洋コース>
- 教員や学生・生徒が大学と高校を行き来し、探究的な学びに取り組む「高大接続『共育』プログラム」の一翼を担うコース。和洋国府台女子高等学校での3年間と、和洋女子大学での4年間を1つの連続した学びの期間と位置づけ、高校2年次から放課後を用いて大学の教養科目を履修する。これにより、早期から興味ある分野に触れることで進路選択を有意義なものにできるとともに、大学入学時にはすでに一定数の単位が取得済みになる。
この結果、大学時代に約半年分の時間的余裕が生まれ、その時間を活かして、海外留学をはじめとした「高大接続特別プログラム」へ挑戦し、興味をじっくりと掘り下げながら思考力や主体性を磨くことが可能になる。
■高大接続特別プログラム
・海外留学(海外大学)
・社会貢献(国内外)
・企業インターンシップ
・免許・資格プログラム
・産学連携プログラム
・探究研究の継続研究
・大学院進学プログラム
興味ある分野にじっくりとチャレンジする時間を生み出す“仕掛け”
「和洋コース」は、和洋国府台女子高等学校から和洋女子大学へ進学することを想定したプログラムです。ポイントは、大学入試をなくし、代わりに自分の興味のある勉強(研究)にじっくり取り組むことができるというシステムです。入試に向けた勉強の時間が必要なくなりますから、その時間を使って、大学の一般教養の科目を履修します。
大学での学びはそもそも、興味を探究していくものであり、受験勉強とは正反対です。美術の歴史や化学の基礎、語学など、高校生たちは、それまでの詰め込み型の勉強とは違った学びに触れ、興味を掘り下げていくことができます。
大学の科目の履修は、高校2年次からスタートします。放課後を使い、週に2~3回、同じ敷地内にある和洋女子大学へ出向いて学びます。これを高校卒業までの2年間続けると、大学のカリキュラムでいうところの20~24単位が取得できます。これは、4年制大学におけるおよそ半年分の学びに相当します。つまり、和洋コースで学んだ高校生は、大学に入ったとき、半年分の「自由時間」を手にしているのです。
半年あれば、好きなことや興味あることにじっくりと腰を据えて取り組むことができます。そこでの取り組みは、自ら行動し、自ら考え、判断する力を養ってくれることでしょう。現代社会が求める「思考力」「主体性」は、一朝一夕には身につきません。ある程度のまとまった時間を使ったチャレンジが不可欠です。それを可能にする “仕掛け”が、本学園の高大接続プログラムだと言えます。
実社会や海外を舞台にした、半年にわたる「新しい人間教育プログラム」
半年分の「自由時間」の過ごし方として、大学から提供しているのが「高大接続特別プログラム」です。ここには、海外留学やボランティア活動など、多様なプログラムが用意されています。いずれのプログラムも、さまざまな人との関わりの中で考える力や行動する力を磨くことに主眼が置かれているので、「新しい人間教育プログラム」とも言えます。
例えば海外留学では、本学と協定を結んでいるアメリカ、イギリス、中国、韓国など、世界各国の大学で約3カ月にわたって学ぶことができます。看護師や保育士、福祉分野での仕事をめざす学生には、障害者福祉施設での実習を用意しています。大学ならではと言えるのが、研究活動に打ち込むプログラムもあることです。
学生が自ら設定したテーマに基づき、大学教授が指導しながら研究に取り組み、論文発表を行なっています。いずれのプログラムも、長期間にわたってじっくりと取り組めることが大きなメリットを生み出しています。
腰を据えてチャレンジすることが効果を生み出している最たる例とも言えるのが、企業でのインターンシップです。最近はインターンシップを実施する企業が増えましたが、期間は数日間というところがほとんどです。これでは、学生は企業を深く理解することができませんし、企業も学生を知ることは難しいようです。
対する本学のインターンシップは約3カ月。学生と企業との相互理解は自ずと深まります。学生は実務上のスキルやコミュニケーション能力をはじめとした人間力も磨くことができますから、就職活動においても大きな強みになります。
高大接続特別プログラムの中でもう1つ力を入れているのが、資格の取得です。就職活動は学生の売り手市場ではありますが、それはあくまでも新卒に限っての話。転職や出産・育児などからの復帰という場面では、希望通りの職に就くことはたやすくないという現実があります。そんなときに役立つのが資格です。
揺るぎない知識やスキルを身に付けた証しである資格は、女性の自立を力強く後押ししてくれるツールです。現在は8割ほどの学生が在学中に何らかの資格を取得して卒業していますが、私たちはこれを、100%にすることを目指しています。
ちなみに海外留学にあたっては、和洋国府台女子高等学校のカリキュラムの中にある「礼法」が役立つと考えています。グローバル人材にとって最も大切なのは、語学力ではなく日本人としてのアイデンティティです。日本の歴史や文化に関する知識を持ち、正しい日本語を使うことができる力こそが、グローバルに活動するための必須の要件なのです。このことはぜひ、世界へと羽ばたいていく若い世代に知っておいてもらいたいことです。
「和洋コース」は、脱・詰め込み教育に対する1つの答え
本学が和洋コースを導入した背景には、これまでの日本の教育に対する危機感があります。
長年にわたって日本の教育は、知識偏重の詰め込み型でした。近年、「それではいけない」「思考力や主体性こそを大切にしなければ」という点で社会的コンセンサスが得られ、大学入試の改革が始まりました。ところが、記述式の入試を実際に行うとなると、膨大な労力が必要です。採点も主観に左右されることが懸念される。せっかく得られたコンセンサスが、入試という具体策に落とし込む段階で大きな壁にぶつかっているのです。
そこで、「それならば入試をやめればいい」と考えたのが本学のプログラムです。私たちも、思考力や主体性を磨こうという思いは同じです。その実現に向けた足かせとなりかねない入試を取り除いてしまい、受験勉強に費やしていた時間を、探究する学びや実社会での学びへと置き換えていこうと考えたのです。
もちろん私たちは、受験勉強に邁進し、「いい大学へ、いい会社へ」という道を否定するわけではありません。そういった道に並び立つものとして、「高校・大学でじっくりと興味を探究し、人間力を養う」という道を提案したいのです。いわば価値観の“複線化”です。価値観が“単線”だと、常に競争によるふるい落としが行われ、成功者はほんの一握りになってしまいます。それはとても息苦しく、暗い社会だと思います。
対する複線の社会では、誰もが成功者であり、それを互いに尊重し合うことができます。私は、こちらの方が明るく活力のある社会だと思います。本学は、「大学入試がない(和洋コース)」「高校生のうちから大学の授業を受ける」という、ちょっと変わった学校かもしれません。
しかし、そんな“変わった”学校が選択肢として受け入れられ、「自分にマッチした場所」として選んでもらえるようになれば、すなわち社会が複線化すれば、私たちの毎日はきっと今以上に明るくなるはずです。それが、この取り組みの先に本学が見つめる世の中の姿です。