神戸女学院大学が仁川学院高校の生徒を対象とした高大連携講座を実施 — 4名の教員が「アイデンティティ」を共通テーマに模擬講義

高大連携
神戸女学院大学が仁川学院高校の生徒を対象とした高大連携講座を実施 — 4名の教員が「アイデンティティ」を共通テーマに模擬講義

神戸女学院大学(兵庫県西宮市)は9月30日から11月11日にかけて4回にわたり、仁川学院高等学校(兵庫県西宮市)の生徒を対象とした模擬講義を行った。これは、2021年12月に両者によって締結された、高大連携に関する協定に基づくもの。同大文学部英文学科の4名の教員が「アイデンティティ」を共通テーマとして、それぞれ講義を行った。

第1回目の講義は9月30日に神戸女学院大学岡田山キャンパスで実施。仁川学院高校2年生約70名が、古東佐知子専任講師による「アメリカ文学とアイデンティティ:多文化的価値の表象」を受講した。テーマとして取り上げられたのは、さまざまなエスニック文学が注目されている現代アメリカ文学。歴史的に抑圧された人々にとって、物語は集団の同一化を促し、その文化的価値を示す手段でもあったが、単純なアイデンティティ化は批判も受けている。講義は「自分が特定の集団に属していると感じていますか」「自分の民族的なアイデンティティについて考えたことはありますか」といった問いかけから始まり、アメリカ文学でアイデンティティがどう扱われているかについての講義、エスニック文学の紹介、作品の日本語訳などを行った。

第2~4回は仁川学院高校で実施。第2回(10月19日)は、松尾歩教授の講義「Identity and Language」を行った。講義の内容は言語とアイデンティティの関係についてカバー。大人になるとひとつのアイデンティティが確立するとされていた昔と異なり、最近ではアイデンティティはダイナミック(動的)でマルチなものだと言われている。そうしたマルチなアイデンティティを持つ人、多様な環境・文化的背景を持つ人は状況に合わせて使う言語を変えたり、方言を2つ操ったり、女性語と男性語を使い分けるなどしてマルチなアイデンティティを表現しており、それは「コードスイッチング」と呼ばれる。講義はこうしたアイデンティティと言語の関係性についてトピックを展開し、考察を深める内容となった。

第3回の講義(10月31日)は、 ショーン・バナシック教授による「ゲーム理論を用いた国際関係論入門」。国際関係学におけるコミュニケーション戦略のひとつであるゲーム理論をテーマとして取り上げた。国際関係学には、国家間の紛争勃発に影響を与える要因を探る研究がある。政治家や外交官が紛争を回避し、影響力を獲得して国家目標を達成するためには、コミュニケーション戦略を巧みに使いこなす必要があり、ゲーム理論はそのための有用な方法のひとつである。講義では特にゲーム理論の有名な2つの概念を取り上げ、国際関係における特定のコミュニケーション戦略の利点と潜在的な危険性についての理解を深めた。

最終回(11月11日)は、奥村キャサリン准教授の講義「多文化化する日本:翻訳を通して文化的アイデンティティを考える」が行われた。講義のテーマとして取り上げられたのは、多文化化しつつある日本社会。少子高齢化の影響で人口が減少している日本において、労働力を確保できない企業が増えており、外国人労働者が多くなってきている。こうした状況の中で「文化的アイデンティティ」をどう考えればいいのか、外国人住民とのコミュニケーションとどう向き合ったらいいのかについて、翻訳作業を通して考えた。

今回の高大連携講座では、文学と言語、国際関係学と日本の多文化化といった4つの分野から「アイデンティティ」というテーマにアプローチを行った。大学の講義の雰囲気を味わうとともに、幅広い分野をカバーし、さまざまな角度から物事を考える「大学の学び」に刺激を受けた様子の生徒たち。これから本格的な受験勉強が始まる時期であるが、その先の大学生活で待っている知的好奇心を誘う学びに期待を膨らませていた。