リーダーシップを語る[3]村尾信尚 関西学院大学教授

リーダーシップを語る[3]村尾信尚 関西学院大学教授

私が考えるリーダーとは、まず、オープンな心を備えている必要があります。さらに、「ぶれない」こともリーダーに欠かせない資質です。

1つ目の「オープンな心」とは、自分と異なるものを排除することなく、受け入れて関係を構築できる力のことです。英語で言うexclusiveではなくinclusiveですね。

リーダーの素養として、しばしば強靭な信念が挙げられます。しかし信念の強靭さはときとして、排他的な姿勢につながってしまいます。

考えてみてください。社会は一人では成り立ちません。何かをなそうとしたとき、必ずチームの力が必要です。チームとは、違いを越えて集まったメンバーのことです。チームを率いるリーダーにオープンな心、すなわち受け入れる心なくして、良いチームを築くことはできません。

2つ目の「ぶれない」こととは、自分が正しいと思ったことに対しては、たとえ困難な状況であってもそこに向かって行動していくことです。「自分の心の声に素直に従うこと」と言い換えることもできます。

孟子に「自ら反(かえり)みて縮(なお)ければ、千万人と雖(いえど)も吾往かん」という言葉がありますが、このような気概をリーダーには持っていてほしいです。

リーダーシップを語る[3]村尾信尚 関西学院大学教授

世の中というものは、右へ揺れ、左へ揺れながら時代が進んでいます。ほとんどの人はこの“揺れ”について行こうとします。結果、世の中から半歩、もしくは一歩遅れて行動することになり、永遠に時代の先を行くことはできません。

対する“ぶれない人”は、世の中の揺れとは関係なく、自分の信じた道を進みます。社会の揺れとは反対方向になって不遇の時代を迎えるときもありますが、社会は必ず揺れ戻ってきます。この時、あなたは時代が求める人になるのです。世の中の揺れとは一線を画して、自分の心の声に素直に従って行動する人は信用してもらえます。「この人について行こう」と思ってもらえます。それがリーダーです。

リーダーシップを語る[3]村尾信尚 関西学院大学教授

「心の声」は、きちんと物事の本質を捉えていないといけません。周りの人が賛同し、「ついて行こう」と思えるだけの心の声を養わなければいけません。そのためには、いろんなことに好奇心をもって、いろんなことにトライしてください。

さまざまな人と関わることも大切です。たくさんの失敗をすることも、素晴らしい訓練になります。そうやって経験を積み重ねることが、どこでも通じる財産へとつながっていきます。

「心の声」を養うもう一つの方法は、洋の東西を問わず、“古典”を読むことです。例えば、孔子や孟子といった中国の偉人の思想に触れると良いでしょう。

アダム・スミスの『国富論』、カール・マルクスの『資本論』、ルソーの『社会契約論』などを読んでみてください。これらの“古典”は、何百年という時の流れのなかで読者の批評に耐えてきました。それだけ本質を突いているということなのです。リーダーが備えるべき資質を、きっと磨いてくれるでしょう。

リーダーシップを語る[3]村尾信尚 関西学院大学教授

村尾信尚 関西学院大学教授

1978年、大蔵省に入省。総務部長として三重県への出向などを経て、1998年に主計局主計官に着任。2001年からは国債課長を務める。2003年、三重県知事選挙に出馬するも落選。同年、関西学院大学教授に就任する。以降、テレビなどでコメンテーターとして活動。2006年10月から2018年9月まで日本テレビ系「NEWS ZERO」のメインキャスターを務める。近著に『B級キャスター』(小学館)。