職業訓練指導員って、どんな仕事ですか?|職業能力開発総合大学校
厚生労働省所管 職業能力開発総合大学校の卒業生に聞く
50余年にわたり、ものづくりに関わる知識と技能に特化し、即戦力も養われる濃厚なカリキュラムで教育を行ってきた、厚生労働省所管の職業能力開発総合大学校。毎年、実就職率100%の実績を誇る同校は、日本各地の職業能力開発施設でさまざまな専門技術を指導する先生「職業訓練指導員(愛称:テクノインストラクター)」の養成と、職業能力開発に関する調査・研究を目的に設立された。知る人ぞ知るこの職業訓練指導員とは、どんな職業なのだろうか。二人の卒業生に話を伺った。
専門技術を教えるだけでなく、心に寄り添う仕事でもある
―お二人は、職業能力開発総合大学校(以後、職業大)在学中に職業訓練指導員を目指されたのでしょうか。
佐藤 私は高校の頃に建築に興味を持ち、実習科目や時間が多いと知って職業大に入学したのですが、入学当初は職業訓練指導員(以後、指導員)という職業すら知らなかったんです。でも、職業大で学んでいくなかでそういう職種があることを知りました。インターンシップで岩手県の職業能力開発施設に行ったのですが、受講生の皆さんが私が教えることに対していきいきと反応してくれたんですね。そのすぐにリアクションを得られることに魅力を感じて、いい仕事だなと思ったんです。
住吉 私は、岐阜職業能力開発短期大学校(現:東海職業能力開発大学校)の電子情報技術科在学中に教授からすすめられて、3年次から職業大に編入したんです(※現在、編入制度はありません)。編入の話をいただいたときに指導員のことも聞いていたので、そういう職業があるというのは知っていました。私は10代の頃に教師になることを夢見ていましたので、教えるということと、短大で学んでいたプログラミングの技術を生かせるという点で、指導員の仕事に魅力を感じていました。また、結婚や出産をしてもずっと続けられる仕事がいいなと思っていて。私が就職を考えた頃は、IT企業で育休を取りながら長く勤める女性はほとんどいない時代だったので、長く続けられることを考えたとき、ベストだと思える仕事が指導員だったんです。私はこれまで2度育休を取らせていただいて、今もこうして続けることができています。
職業訓練指導員とは?
求職者や在職者、障がいを持つ人などさまざまな人に対して、機械、電気、電子情報、建築など123職種に関する技能や技術を指導し、就職やスキルアップのための支援を行う専門職。各分野における高度な技術と実践的な技能を備えた人材の育成という、日本のものづくり産業の根幹を支える大事な役割を担っている。国家資格の免許が必要。
―この仕事の大変な点はどんなところにあると感じますか。
佐藤 職業能力開発施設に通う受講生は、20代から60代くらいまで年齢層も幅広く、それぞれの職歴や経験もさまざまです。ですから、指導員になったばかりの頃は年上の方に教えるということだけで緊張してしまったり、コミュニケーションの難しさを感じたりすることもありました。うまく伝えることができず、誤った伝わり方になってしまったこともあり、そういう失敗をするたびに申し訳ない気持ちになってしまって。
住吉 私もそうでした。指導員という仕事は、技術を教えるだけではなくて、就職のアドバイスもしています。指導員になったばかりの頃は、受講生の方たちは私よりも社会人経験のある方ばかりなので、うまくアドバイスができなくて。でも、経験を重ねていくうちに、そういう不安はなくなっていきましたね。 大変なことというと、私が教えているプログラミングやソフトウェア開発という分野は特にだと思いますが、技術の進化が著しい世界。そのため、私も日々勉強していかなくてはなりません。企業のニーズもどんどん変わりますから、直接企業の方から情報を得たり、同僚と情報を共有したり、専門誌を読んだりしながら、授業に新しい要素を少しずつ取り入れられるよう工夫しています。
佐藤 建築の分野も、進化しているという点では同じですね。私もさまざまな方法で情報を取り入れて、授業内容を見直すということはマメに行っています。指導員の理解度が高くなければ、わかりやすく教えることはできませんからね。私たちも、努力し続ける必要があるんです。
―決まった技術をマニュアル通りに教えるのではないのですね。
佐藤 これは指導員として働き出してわかったことですが、指導員という仕事は、受講生に技術を教えるだけではなく、心に寄り添うことも大事なのだと実感しています。職業能力開発施設に通っている方は、気持ちが明るくて元気な状態の人ってなかなかいらっしゃらないんです。何らかの理由で仕事を失ったり、働けない状態になった方が多いですから。だから、ときには励ましたり、勇気づけたり、言葉をかけることで背中を押してあげたいと思っているんです。
住吉 就職に関しても不安に思っている方が多いので、どういうところが不安なのかを聞いて、背中を押してあげることを心がけています。私たちが教えていることって、就職先で実際に働くための基礎的な力でしかないんです。就職してすぐにバリバリ働けるというものでもない。でも、職業訓練を受けたときの姿勢ややり方は実際の仕事に反映させることができますし、そこから着実に力をつけていくことは可能ですから、焦らずに今までやってきたことに自信を持ってと声をかけています。
佐藤 半年間の受講期間中に、ずっと塞ぎ込んでいた人がハキハキと話せるようになったり、表情が明るくなっていくうちに就職できたりと、そういう姿を見ると本当によかったなって思います。受講生にとって、職業能力開発施設に通っている期間は、とても大事な時期なんです。
―そういったことも、やりがいにつながっているのでしょうか。
佐藤 そうですね。修了生が訪ねて来てくれることもあって。皆さん遠いところから通っているので、就職後にわざわざ足を運んで近況報告してくれると、とてもうれしいですね。
住吉 修了後に就職が決まってその報告に来てくれたり、仕事をする上で学んだことが役に立ったと言ってもらえたり。そういう声はやはり励みになります。就職先の上司と一緒に訪問してくれて、人が足りないのでここに求人を出したいと相談してくれることもありますね。
受講生の皆さんは職業能力開発施設で学ぶことに人生をかけている、本当に真剣なんです。自分が教えたことがその方の幸せにつながっていることは、私にとっては何よりの喜びです。
―日頃の業務で心がけていらっしゃることはありますか。
佐藤 受講生に対して、できるだけフラットでいることですね。先ほどお話ししたように、受講生の方は年齢も性別も職歴もバラバラ。そのため、授業の理解度はもちろん気にかけつつ、その他のことは気にしすぎないようにしています。自分より目上だからとか、若いからとか、そういうところで対応を変えることもありません。
住吉 私も授業では同じように心がけています。ただ、就職指導の際、女性の方には同性だからこそわかる部分や、家族と相談しておいた方がスムーズな点についてはアドバイスするようにしています。旦那さんやお子さんがいらっしゃる方は特にですが、仕事の条件が日常生活に支障をきたしてしまっては、元も子もありませんから。できるだけその方がいきいきと仕事ができることを願って、アドバイスさせていただくようにしています。
仲間の存在と実習の楽しさで、勉強の大変さを乗り越えられた
―今、職業大での学びが生きていると感じることはありますか。
住吉 専門的な学びはもちろんですが、私は研究室の先生がとにかく文章に厳しくて。ちょっとした資料や研究のレポートも文章の添削で真っ赤になって返ってきた記憶があります。学生時代はそれが辛くていやだなと思うこともありましたが、そのおかげで今はさまざまな文書の作成もスムーズにできているので、とても感謝しています。
佐藤 それはうらやましいですね。私は文章を書くのがとても苦手で。指導員になってから資料を作ったり議事録を作成したりするのにとても苦労しましたから。
私の場合、職業大の学びがダイレクトに生きているのは、実習での先生の教え方だと思います。職業大はとにかく実習が多いので、さまざまな実習を受講生として経験しているわけです。先生によって教え方も少しずつ違いますし、実習の内容によっても、先に説明をするのか、やりながら説明していくのか、その進め方にもいろいろなバリーエーションがあって。そういった学生時代に触れていた教え方の引き出しが、教える立場になって参考になっています。
住吉 それ、すごくわかります。卒業してからのほうがいろいろな先生の授業を思い出します。
―職業大は、授業時間が多くて大変でしたか?
佐藤 私は高校で物理を専攻していなかったのですが、建築には欠かせない科目。高校で学ぶべきところも含めて、みんなに追いつかなきゃいけないのが大変でした。でも、寮生活だったこともあって常に勉強する仲間がそばにいてくれたので、一緒に勉強したり、物理が得意な友人に教えてもらったりして挽回しました。授業は大変でしたけど、ものづくりが好きで建築を目指したので、小規模でも実際に建物を作る経験ができてとても楽しかったですね。机に向かうだけでなく、体を動かしながら学んでいくスタイルが私には合っていました。楽しかったから、その大変さも乗り越えられたんだと思います。
住吉 取得単位数が他大学よりも多かったので、毎日みっちり授業を受けていた記憶があります。それはもちろん大変なことではあったのですが、今振り返ると仕事につながっていることばかりで。頑張っていてよかったなあと思います。また、私は編入だったので職業大の1~2年次で学ぶべきところを通らずに3年次の授業を受けなければならず、その点でもハードだったと思います。学んでいないところを補いながらの学習でしたが、同級生が過去のノートを貸してくれたおかげでついていけました。私も仲間の助けが大きかったと思いますね。
―職業大のよさはどんなところにあると思われますか。
住吉 実践しながら学ぶことができたのはよかったです。手を動かしながらのほうが性に合っていたというのもあると思いますが、もともとソフトウェア開発に興味があったので、自分で実際にプログラミングを書いたり、仕組みを作ったりという体験ができたのは、学ぶ喜びにもつながっていった気がします。
佐藤 そうですね、実習が多いことは本当によかったと思います。それから、私は小人数制だったことでしょうか。授業でもきめ細かく見ていただきましたし、仲間との絆も強くなりました。先生との距離も近いので、気軽に相談にも乗っていただいていました。
ものづくりのおもしろさを伝え、受講生の未来を応援する喜び
―あらためて、職業訓練指導員の魅力を教えてください。
佐藤 ものづくりが好きで、人に伝えることや教えることに興味があるなら、これ以上いい仕事はないと思っています。日々、新しい技術や建築のトレンドを勉強するときも、自分のためだけに勉強するのではなく、受講生にも伝えることができると思うと、それが喜びになるんです。誰かの力になれるというところが魅力だと思います。
住吉 女性の私でも、こうして長く勤めることができることは、一つの魅力かなと思っています。育児休暇も取得できましたし、復帰もしやすかったですしね。私は好奇心旺盛なので、新しいことを知ることができるのもとても楽しくて。自分が興味を持った新しいこともどんどん授業に反映できる点にもおもしろさを感じています。
―今後の目標は?
佐藤 自分の中で満足のいく完璧な授業ができたと思えることがまだ少ないですね。20人の受講生がいれば、全員が同じくらい理解できているとも限りませんし。毎回、どうしたら全員に理解してもらえるのかを考えながら進めています。ですから、受講生全員が満足してくれる授業をすることが日々の目標ですね。
住吉 受講期間内に全員が就職してもらえるよう、力になりたいです。もちろん修了時に就職先が決まっていない方もいらっしゃるのですが、担当したクラスの皆さんが次のステップに進む姿を見届けられたら理想的だと思っています。