企業が高く評価する“学び続ける人材”を育てる|関西学院大学
「 ハンズオン・ラーニング・プログラム」養われた“知的基礎体力”が自らを成長に導く
卒業生5000人以上の大規模大学で実就職率No.1という実績を誇る関西学院大学。その強さに迫るシリーズ第3弾となる今回は、「キャンパスを出て、実社会を学ぶ」をキーコンセプトに開講されている「ハンズオン・ラーニング・プログラム」にフォーカス。
このプログラムを履修した学生の約7割が社員数1000人以上の大企業へ就職し、有力400社への就職率は全学平均を大きく上回る。
なぜ、ハンズオン・ラーニング・プログラムはこれほどまでに高い就職実績を残すことができるのか。同プログラムを運営するハンズオン・ラーニングセンター長の角野幸博教授と勝又あずさ准教授に伺った。
現場と教室を行き来することで「自らに必要な学び」に気づく
ハンズオン・ラーニング・プログラムは、本学が提唱する「ダブルチャレンジプログラム」を構成する3本柱のうちの1つを担っている科目群です(図1)。「キャンパスを出て、実社会を学ぶ」をキーコンセプトに実践的、体験的な教育プログラムを提供しています(図2)。企業、地域、行政、NPO・NGO等と連携し、主に①課題解決・企画提案型プロジェクト、②インターンシップ、③フィールドワークを中心とした内容になっています。2018年度は約2500人が受講。対象は全学年ですが、主に1・2年生が受講しています。
本プログラムにおいて、キャンパスから飛び出して実社会で学ぶことはもちろん重要な要素です。しかし私たちが最重要視しているものは、実はその先にあります。すなわち、社会に出ることで課題を見つけたり目標を持つようになり、「それらを解決・実現するためには、自分は何を学ぶべきだろうか?どんな学生時代を過ごすべきだろうか?」と考えることです。
この社会の課題に自ら向き合う学修姿勢、思考力、行動力を、私たちは〝知的基礎体力”と呼んでいます。プログラムを通して問題意識をキャンパスに持ち帰った学生は、問題解決に役立つ科目を履修したり、学内外での活動に参加します。そこで得た知識・経験を実践するため、再びプログラムに参加すると、学びの成果を実感できるとともに、新たな課題に気づくこともできます。こうやって社会と大学、現場と教室を行き来することで知的基礎体力は鍛え上げられていきます。言い換えるなら、学び続けていく姿勢が養われるのです。プログラム履修者がひときわ高い就職実績を残している1つの要因は、この知的基礎体力が役立っていると考えています。
また、現場と教室を行き来することで、自分の興味や得意分野が、実社会ではどんな企業のどんな職種と結びついているのか理解を深めていくことができます。このことが自信を持った就職活動、ひいては納得のいく就職へつながっているように思います。
本プログラムには企業や地域社会との連携が欠かせません。プログラムの内容も時代に即したアップデートが必要です。それらの取り組みを着実に進めながら、学生たちを成長へと導くプログラムとして進化を続けていきたいです。
企業や社会人に接しながら仕事とキャリアを考えることで、学ぶべきこと・進むべき道を自ら見つめるように
関西学院大学のキャリア教育は、キャリアセンターが開講してきた「ライフデザイン科目」にルーツを持つ。2017年度からはハンズオン・ラーニングセンターに運用が引き継がれている。
キャリア教育の中の基礎的な科目が軸足を置くのは、「自分を知り、社会を知り、働くことを考える」という点。このことから基礎科目は、実践的な科目に取り組む前工程や、実践後に体験を言語化するための工程と位置づけられている。
実践的な科目では、卒業生と連携した「キャリアゼミ」が大きな特長となっている。ゼミナール形式のこの授業では、「自分と他者、会社と組織、現在と未来」といったさまざまな視点から、学生同士や卒業生とともに「キャリア」について考えを深めている。また、課せられたテーマをもとに、企業や社会人へのインタビューやリサーチ、学生同士のディスカッションなどチームで活動し、企業への課題解決策やビジネスプランを提案するなど、実社会との接点を持ちながら学んでいる。
「キャリアゼミ」における講師は、入社2~3年目の若手社会人から企業経営者まで、さまざまなキャリアステージにいる卒業生が務めている。2007年度の開講以来、「キャリアゼミ」を受講した学生が、卒業後も関西学院大学とつながりを維持・深耕させることも増えている。その結果として、近年では、キャリアゼミ受講生が社会人になって講師として登壇するケースも現れている。
キャリアゼミ受講生は、大学1年次から企業や社会人と接点を持つことで、大学生活で自分が何を学ぶべきか、卒業後はどのような進路に進むべきかを早期から考え始める。そして、具体的な行動を起こしていく。そういった学生が多いことも、キャリアゼミの大きな特長だ。
このほかに、中央省庁の国家公務員総合職と連携した「霞が関セミナー」をはじめ、監査法人と連携した「公認会計士と挑む企業のビジネス課題」、若手起業家と連携した「アントレプレナー養成講座」など、学生が将来目指す具体的なキャリアに関する知識を得て、スキルを磨く科目も開講している。
関西学院大学のキャリア教育は、「学内で事前に学び、学外に出て実社会を体験し、そこで得た気づきや疑問を学内での学びで深めていく」という順序を追うように設計されている。すなわち、「学び続ける」ことを後押しする設計と言える。ここからは、学び続ける重要性や、学びを通した学生の成長について、キャリア教育プログラムの指導を受け持つ勝又あずさ准教授に話を伺う。
―なぜ、学び続けることを重視するのでしょうか。
勝又 IT分野が代表例とも言えますが、現代社会のように変化が目まぐるしい世の中では、身につけた知識やスキルがすぐに陳腐化してしまいます。そんな社会においても〝価値ある人材”であり続けるためには、自らを常にアップデートする必要があるからです。つまり、新しい知識や技術を身につける姿勢が非常に重要なのです。
幸いなことに本学の学生は、就職先に対する満足度がとても高いです。だからといって、入社後に満足する部署に配属され、満足する仕事を担当できるとは限りません。仮に最初はそうだったとしても、違う環境で仕事をするときや、まったく経験したことのないチャレンジを求められる日も来るでしょう。こういったときにも必要となるのが、学ぶ姿勢であり、自らをアップデートする姿勢です。
外国や企業といった自分とは異なる経験、価値観、文化を持つ集団に飛び込むと、否応なく刺激を受けて学びのスイッチが入ります。難しい課題に直面したり社会人のレベルの高い仕事ぶりを目の当たりにすると、自信を失いそうになることもあるでしょう。しかし、その経験もまた、学びへの意欲を掻き立てるスイッチなのです。ですから私が担当するプログラムのゴールには、「継続的に学び続け、変わることを恐れない」と並んで「失敗や恥をかくことを恐れずに挑戦する」という項目が掲げられています。
―日々の指導で心がけていることを教えてください。
勝又 表面上のテクニックを教えるのではなく、プロセスを重視することです。
企業でプレゼンテーションに挑んだプログラムを例にして考えてみましょう。プレゼンテーションでは、資料の作り方や話し方が注目されがちです。でもそれはあくまでも最終仕上げの段階のテクニックです。私はそこではなく、発表している内容そのものを大切にしています。また、一緒にテーマに取り組む社会人の先輩たちが、どのように情報を集めたり分析したりし、どんな議論をし、どうやって答えを導き出しているのかをしっかり見るように指導しています。社会人の考え方や行動を目の当たりにすることで自分自身との差が認識でき、そのことが次の学びへのスタート地点になるからです。
ちなみにですが、そうやってプロセスをしっかりと踏まえた学生に限って、見栄えも伝え方もレベルの高いプレゼンテーションを行う傾向にあります。
また、「本物に触れる」ことも重視しています。多くの仕事がAIに取って代わられる社会を目前にして、センスやマナー、コミュニケーション能力、美的感覚、感性、味覚などのAIでは代替が効かない資本、すなわち「身体的文化資本」の重要性が唱えられています。そして、身体的文化資本を養うために大切なのが、本物に触れることなのです。本物とは音楽や絵画などの芸術も指しますが、キャリア形成やライフデザイン形成においては、「現場」を指します。学生時代に現場に触れておくことが、就職先選びという、自分にとっての本物を見極める力を養うのです。
―プログラムを履修した学生にはどのような変化が見られますか?
勝又 物怖じせず質問や発言をするようになる学生が多いです。それも、学内の気心知れた相手に対してだけでなく、ずっと年上の卒業生や、日本を代表するような企業の役職者に対しても臆することなく質問するのです。「失敗を恐れない」というプログラムの方針が実を結んでいるのかもしれませんが、非常に頼もしいです。この姿勢は就職活動の面接などの場面でもとても役に立っているのではないでしょうか。
もう1つの変化は、視野が広がることです。学び続ける姿勢が身についてくると、興味や関心の枠がどんどん広がっていきます。1つ知るたびに新しい疑問が1つ生まれ、次の学びが始まっていくのです。視野が広がることは自分の可能性が広がるという意味でもあります。自分にフィットする進路を選ぶという点でも、視野の広がりは非常に有効です。
―今後の展望をお教えください。
勝又 今以上に、プログラム参加後の学びの継続を後押しできるようにしたいです。本学のミッションステートメントには「学びと探究の共同体」という言葉があります。変化を恐れず挑戦を続けていく学生が刺激し合い、「学び続けていこう」という意志を大学全体に広げていきたいです。そうすることで、ここで言う共同体を実現させたいです。
学生インタビュー
- 仕事をする場所も時間も自分次第。自由と責任が共存する働き方と出会う
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商学部1年
野路菜々華さん1年の夏休みに、企業を舞台にしてチーム活動と成果報告のプレゼンテーションを行うプログラムに参加しました。会場となったのはYahoo!JAPAN。日本を代表するIT 企業での学びは刺激いっぱいでした。
活動のテーマとなったのは、「エシカル」という、環境に配慮したり社会に貢献する消費活動の考え方をPRする方法を考えること。ただし、直接的にPRするのではなく、いかにして知らず知らずのうちに浸透させるか、という条件がついていました。エシカルに共感してくれそうなターゲット層の設定をめぐってチームで議論したり、関連が深い業種であるレストランの料理長に意見を聞いたりと、考えられる限りの方法にチャレンジし、意見をまとめていきました。
時間の制限があったため、最初は「こんな短期間にできるはずがない」と思っていました。その気持ちを途中から切り替え、「とにかくやってみよう!」と考えて行動を起こし始めた頃から、どんどん物事が前に進むようになりました。この行動力は、プログラムで得た大きな財産です。学校に戻ってきてからも、「おもしろそう、成長できそう」と思うことには積極的にトライするようになりました。
Yahoo! JAPANの方と一緒に活動して驚いたのは、みなさんがとても自由だったことです。オフィスのどこで仕事をしてもいいし、仕事を始める時間も終わる時間もその人次第なのです。また、自由だからこそ、責任を持って働いている姿にも気づきました。その様子を見て、「私もこんな働き方がしたい」と思うようになりました。
現在の目標は、Yahoo! JAPANで取り組んだテーマを深掘りし、企画書にまとめることです。プログラミングなど、ITスキルも高めたいと考えています。「パソコン1台あれば、あとは自分の能力次第でなんとでもなる」という働き方へ向けて、自分を磨いていきたいです。
- 迷ったときは苦しい方を選ぶ。そうすることで成長できる
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法学部政治学科2年
寺井一晴さんハンズオン・ラーニング・プログラムで印象的だったのは、「訪問先企業の社員のキャリアについて考えよう」というテーマで行われたプログラムです。どの企業を訪問するか、誰に話を聞くか、いつどこで話を聞くか、などの事前準備からすべて自分たちでするのです。最初は、「この授業はいったい何をさせるんだ」と思いました。企業や社会人に対してアポ取りをした経験など当然ありません。ところが、クラスメートと話し合いながら方法を考えることで、打開策は必ず見つかることを知りました。苦労してお会いできた方ですから、「この時間を無駄にするものか!」と、貪欲に話を聞くことができました。今となっては、授業の仕組み自体が、敢えて厳しい環境に身を置くことで成長を促していたんだなと納得しています。
とてもありがたく思うのは、四苦八苦する私たちを見守ってくれる、先生をはじめとした大人の方たちです。失敗をする私たちを見つめるのは、きっともどかしいと思います。でも先回りして手を差し伸べることはしません。かといって突き放すのではなく、笑顔で「大丈夫、やってごらん」と背中を押してくれます。先生がよく口にする「ピンチはチャンスだよ」という言葉を、このプログラム通じて「まさにそのとおり!」と思えるようになりました。
霞が関で官僚の方の話を聞くプログラムや、企業でプレゼンテーションをするプログラムにも参加しました。それらの経験を通して、以前は思いもしなかったような職業や働き方、キャリアを知りました。視野が広がり、自分には予想もしなかったような可能性が秘められていることを実感しています。選択肢が増えすぎたことがむしろ悩みの種になっている気もするのですが、これから先もハンズオン・ラーニング・プログラムを活用することで、自分にマッチする進路を見極めていこうと思います。